セオドール
「でもね、うれしくないんだ」
消えゆく世界の中の一欠片から聞こえた声、きっとあの少年は私と一緒。嫌われる事が一番いやな事なのだろう。
「だ…ら………んだ」
色鮮やかな世界が消えて、また視界が闇に包まれる。あの緑の世界は、誰の記憶だったのだろうか。
思考が鈍い。考える事すら、やめたくなる。
考える事を放棄して、瞳を閉じた。刹那、音のない世界に賑やかな声が聞こえた。
男と女、各々の手には、小さな命が眠っているのがみえる。
銀と青を持つ男の子と女の子。
きっと産まれたばかりの赤ん坊だ。
「セオドール」
ふいに視線をうごかして、鏡に視線が移る。
そこに、さっきみた少年が一人。
少年の記憶と、弟と妹。
……もしかして、もしかして、もしかして、もしかして。
この記憶が、先ほどよりも少し先の未来だとサメラは理解したと同時に一つの事が頭を占領する。
「母さん」
耳の奥にある小さな違和感。
いつもより低い、声。
そんな声に反応して、柔らかな声が聞こえる。
「セシルとサメラよ。仲良くしてね、お兄ちゃん。」
予想を裏切ってはくれなく、意識はそこで、フェードアウトする
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