アクナディン(笑) 本を抱えて回廊を行く。 しかしまぁ、シモン様の名前出しただけで借りれるんだから、王宮図書館もちょろいもんだわ。 ばれたらタダじゃ済まないだろうけど… それにしても今日は良い天気。 中庭を見ながら歩いていたら、そこに知った人の姿を見かけた。 無視する訳にもいかずに、近付いて頭を下げた。 「お疲れさまです、アクナディン様」 「おお、トトか…」 深い声で名前を呼ばれて、不意に父さんを思い出した。懐かしいなぁ。なんて。 「顔をあげなさい。…本を借りてきたのかね?」 …う。 何でこのお人は痛いとこを突いてくるんだろ。これも、その千年眼の力ですか、そうなのですか。 初めて会ったとき、その金属の左眼に恐怖を感じた。何を見てるのか解らない、異質な眼。 けれど、本当はアクナディン様はとても慈悲深い心優しい方なんだ。見た目でちょっと損してるだけで。 「あ、は、はい」 答える声はついしどろもどろで、怪しまれやしないかと背中を冷たい汗が伝った。 「相変わらず勤勉だな、お前は」 「あ、ありがとうございますっ…! いや、勉強位しないといつ辞めろって言われるか解らないので」 それは、ちょっとした皮肉も混ざってたり。 貴方の愛弟子にだいぶいびられてるんですが、私。どうにかしてくださいよ、いやまじで。 「辞めるかどうかはお前次第だろう。…それとも、誰かにそう言われたのかね?」 いや、そう直に言われると本気で困るんですが。 「…セトかな?」 「う…」 口籠もる。言える訳ないじゃない。自分の好きな人の事を否定されて嬉しい人はいないもん。 優しいアクナディン様だって気を悪くするに決まってる。 けれど、無言は否定になりはしない。そのまま『はい』を表すものだ。 小さく息をついたアクナディン様は「困ったものだ」と呟いた。 その顔を見れなくて俯いた私に優しい声で彼は言う。 「セトに悪気は無いのだよ、トト。ただ、他人に厳しすぎるだけで」 「でもっ…!」 それならあんな突き刺すような目で見る訳がない。 「トト。セトは感情表現が下手なのだ。彼はお前につらく当たっているだろうが、それはお前に期待しているからに他ならないのだよ」 理解できない。 そう思ったのが伝わったのかもしれない。 ぽん、とアクナディン様の手が私の頭の上に置かれた。 驚いて顔をあげると、優しく頬笑んだアクナディン様が私を見ていた。 「トト、今は解らなくて良いのだ。いずれ解る時が来る。それまで辞めてはならぬ。良いな?」 「は…い」 思わず頷いた。 満足そうに頬笑んだアクナディン様の手はとても温かくて。 本当に、まるで父さんみたいだと、思った。 私がその理由を知るのは、 まだ先の話。 *# |