演奏者の足りない三重奏



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プリズムリバーは三姉妹です。
三姉妹で三重奏をしています。

ある日、姉妹が演奏をしようと準備をすると、何故か三重奏ではなく四重奏の準備になっていました。
それからも、三重奏をしようとするといつのまにか四重奏の準備が出来ていて、何故か心の中にぽっかり穴が空いたような気持ちになりました。

三重奏の席の横に、もう一つ空いている席。
その席はずっと空いたままで、その席に誰が座るのか、姉妹は誰一人分からないままでした。



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「またなの…?」
「姉さん、またなの」
「またなの」

今日は廃洋館で演奏会を開くことになった。
ルナサは楽器の手入れに専念していた為、妹達に演奏会の準備を任せていた。
手入れを終えて様子を見に行くと、明らかに可笑しな点を一つ見つけた。
それは、椅子の数が合わないことだ。
演奏者が三人に対して椅子が四つ必ず用意される。
そしてこういう現象は今日が初めてではなく何回も何回も起こってきた為、またかとなっていた。
しかも、毎回椅子を用意する度に無意識に四つ用意してしまう為、三姉妹は不思議に思っていた。

「数の数え方くらいは大丈夫なはずよね…」
「だから、いつの間にか四つ用意しちゃってるのよ」
「私もメルラン姉さんもだけど、ルナサ姉さんだって椅子を四つ出したことあるでしょう?」
「そうね……。一体何なのかしら…」

ルナサ、メルラン、リリカは一つだけ余った席を見つめた。
無意識に用意してしまう理由。
四つ目の席を見つめると心にぽっかり穴が空いたようになるこの気持ちは何なのか。
三姉妹はただ空いた一つの席を見つめることしか出来なかった。



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準備をしたのに演奏をしない訳にはいかないので、三人は客のいない演奏会を始めた。
いつもの調子で自分の担当を演奏する。
音楽を何処までも届ける為に、騒音は廃洋館中を響き回った。
メルランは演奏中に何度も四つ目の席を気にしていた。
どうしてもその空いた席が気になっていたのだ。
すると、騒音からトランペットの音色がすっと消えた。
ルナサとリリカが気が付くと、メルランは演奏を中止していたのだ。

「どうしたのメルラン」
「メルラン姉さん?」

いつも明るい性格なはずのメルランが、四つ目の席を見つめて切ない表情を浮かべていた。

「私達、何の為に演奏をしているのかな」

メルランがぽつりと呟いた。
その言葉は何故か二人の心にも引っ掛かった。
自分達も同じことを思っていたからだ。

「私は私の音楽を聴いてほしくて奏でてきたわ」
「それは誰の為に?」
「……?」

ルナサの答えにメルランは再び聞き返した。
彼女は何を言いたいのか。何を思っているのか。
ルナサとリリカは黙ったままメルランを見つめた。

「私は、その席に座る人を呼ぶ為に演奏をしているわ」
「メルラン…?」
「私達は三重奏じゃない。四重奏なのよ」

迷いもなく放たれた言葉を、次にリリカはこう返した。

「レイラ…」

プリズムリバーは三姉妹ではなく、四姉妹だった。
ある日レイラが亡くなり、三姉妹は消滅するはずだった。
しかしレイラにより生み出された三姉妹は今も存在し続けていた。
今自分達がこうしていられるのも全ては妹のレイラのお陰であり、三姉妹は感謝をしたかった。
しかし彼女はもう館にはいない。
過ごした日々が少なくて、感謝する時間も少ないまま終わってしまった。

「今度は私達の手で、レイラを呼ぶの」

レイラが何処に逝ったのか分からない。
もしかしたら彼女は今も何処かにいて、私達を見ているのかもしれない。
メルランは椅子から空の方へ視線を移した。

「だから私達は演奏を続けてきたのかもしれないわね」
「ルナサ姉さん…?」
「リリカもそうでしょ」
「……レイラと一緒に、演奏したかったわ」
「私もレイラともっと一緒に過ごしたかった」

ルナサはふっと瞼を閉じて切なく微笑んだ。

「私達の音……、レイラに届いてるといいね―」



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何処かで眠る愛する貴女へ


私達、館で今日も演奏を続けています。
いつか貴女と一緒に音を奏でられる日が来るのを待ち続けています。

どうか、私達の演奏が何処かの貴女へ届いていますように。


貴女に最も近いと思われる場所から
ルナサ メルラン リリカより



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