humming bird



●○●



「パチュリー!」

今日もまた厄介事の始まりかしら。
パチュリーは可愛らしい声のした方を向いた。
いつにも増して今日は上機嫌なフランドールがそこにいて、今にも飛びついてきそうな元気な姿を見せていた。

「妹様。どうしてそんなに機嫌がいいのかしら」
「あのね、声を褒められたの」
「へえ、それは誰に?」
「この前やって来た人間よ」
「人間?魔理沙?」
「ううん、男の人」
「ああ。彼のことね」
「フランの声、すごく可愛くて好きだなって…」
「ふぅん、なるほどね」

彼、とはこの前やって来た人間のこと。
突如幻想郷に現れたりしたから皆が彼のことで騒いだ。
その騒ぎをこの館の当主が聞きつけ、連れてこいと命じ、彼という人間は紅魔館へやって来た。
そこでフランドールと出会い、彼は彼女の声を褒めたのだ。

「私、褒められたのが嬉しかったの…」

フランドールは頬を染めて小鳥のように呟く。
本当に嬉しかったのね。
パチュリーは彼女を見ていると自然と微笑んでいた。

「それでねパチュリー。私にお歌を教えてほしいの」
「……え?」

微笑んだ表情は驚きへと変わった。
私が歌を?と思ったが、そもそもなぜフランドールは歌を教えてほしいのか。
パチュリーは理由を聞いてみた。

「私の声をもっと聞いてほしいなって。だからお歌を歌いたい」

瞳は真剣そのもの。
真っ直ぐ訴えかけてくる瞳はパチュリーを離さない。
パチュリーはふう、と一息吐くと

「分かったわ。私も出来る限り協力するわ」
「うん!」

ぱっと可愛い花が咲いた。



●○●



歌うにはまず、音楽と歌詞が必要だと思われる。
場所を図書館へ移し、資料を探し出す。

「まずい。あのまま歌わせたらまずいわ…」

パチュリーはまずいと繰り返しながら本を漁った。
彼女の言うまずいとは数分前の出来事に遡る。
歌の基本的なものが備わっているか確かめるため、パチュリーはフランドールに簡単な歌を披露してもらった。
ラという言葉だけで音階練習をするまでは良かった。
しかし、いざ歌詞をつけて歌ったら思わぬアクシデントが発生した。
歌詞の内容があまりにもひどすぎたのだ。

―…

貴方をぎゅっとして抱きしめたら血が溢れた。溢れた血は紅茶にして、私が残さず飲みほした。

…―

このような具合に歌詞が続いていく。
後は詳しく表記しないが“流石悪魔の妹”とでもいうような、恐ろしい歌詞であった。
これではあまりにも人に贈る歌としては酷だと判断したパチュリーは、本を読み綺麗で良い表現を探した。

「パチュリー…私のお歌はダメだったの?」
「そういうことじゃないわ。音程は大丈夫なのだけど、歌詞が人に贈るにはダメだと思ったの」
「うーん、ああいう歌詞は良くないのね…」
「あ、この本」

会話中、パチュリーは良さそうな本を見つけ、手に取った。

「なになに?何の本?」

フランドールはパチュリーの取った本が気になるようで背後から覗き込んできた。
本のタイトルは。

「愛の詩」
「あ、あ、…あいのうたっ…!?」

何故かタイトルを聞くと動揺するフランドール。
その様子が不思議に思ったパチュリーはフランドールの名前を呼ぶ。

「か、彼に愛なんて、そんなのっ…な、ない…わ!」
「?」
「好きとかそんなのないのっ!」
「……顔を赤くして言われても説得力がないわ、妹様」
「パチュリーのバカァ〜…」

今の一連で少しはフランドールの歌に対する思いが分かったところでパチュリーは本をパラパラめくり始める。
歌詞に相応しい言葉はないか、文字という文字を追っていく。
歌詞を考えるというのはしたこともない。
パチュリーにとってこれは未知なる域への挑戦だ。
本とにらめっこをし始めたパチュリーを、フランドールはきょとんとした目で見つめた。



●○●



「妹様。こんな感じならどうかしら」

愛の詩と題した本から抜粋した単語を紙に並べた。
軽く眺める中に、フランドールが目を止めた単語があった。

「好きな…人?」
「詩に込める思いは、やっぱり好きな人に向けなくちゃね」
「だから私、彼のことが好きとかそうじゃなくて…!」
「妹様―」

恥ずかしくてついつい感情が高ぶるフランドールを、凛とした声でパチュリーは制止させた。
しーんと鎮まるフランドールは、これから何を言われるのか想像がつかずパチュリーを見つめる。

「好きという言葉には、いろんな意味があるの」
「?」

向き合う二人。
フランドールはきょとんとした目を向け続ける。

「相手を愛したい気持ちの好きという意味と、もう一つは、大切な人へ向けての好きという意味」

愛とは曖昧で、愛が持つ意味もまた様々で曖昧だ。

「好きっていうのは、私が貴女を思う気持ちと同じようなものもあるの」

いろんな形の愛がある。

「妹様は、私の好きな人」

友人が一生の大切な人だと思うように。

「これからもずっと、大切にしていきたい人なのよ―」

永遠に繋がっていたい気持ちが、好きという言葉になるのだろう。

「パチュリー……」
「…さて、これで歌詞はきっと思いつける。ね、妹様」
「……うん―!」



●○●



小鳥は羽ばたいた。
可愛らしい声でさえずりながら愛しい人へ届けに行く。
可愛らしい声と愛の詩を添えて。


「ねえ―。私のお歌、聴いてくれる?」



●○●






後書きという名の補足。



フランドールのリクエストでした。
リクエストしてくださった方ありがとうございました!
今回は可愛らしいフランドールというテーマで書きました。
読んでくれた方が可愛いとでも思ってくれたら幸いです。
今までフランが登場した作品を読み返すと、どうも内容が可愛くないものばかりだと思ったので(^^;
若干夢現っぽい(フラン→彼みたいな)感じに。
でもパチュフラくさい気がするのは何故。
今回フランとパチュリーの絡みが多かったですが、フランに対してのパチュリーの口調に悩みました。
敬語なのか、いつも通りなのか。
私的には後者の方がパチュリーっぽいのでそちらを採用しました。
じつはここまで書いておきながら「なんかフランがメインじゃなくてパチュリーがメインのような小説だなあ」とか思ってきたのは内緒です←
タイトルのハミングバードですが、鳥の総称とは関係ありません。
ハミングという言葉は歌に繋がるし、鳥の声は可愛いので今回のお歌を歌いたいフランのイメージにぴったりだったのでこんなタイトルになりました。
ハミングって口を閉じて歌うので、口を開けて歌を歌うのとはまた違うのですが本編では一応歌はまだ歌ってないので、ハミング(合唱や歌う前の練習みたいな)ってタイトルでも間違ってはないと思います。

いかがでしたか?
毎度の如く相変わらずな文章で申し訳ないですが、感想なんかもお待ちしております。
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!

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あきゅろす。
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