オアシスを見つけた冒険者



●○●



天気がいいから散歩でも行ってくるわ。
レミリアは廊下ですれ違ったメイドに告げると、傘を差して外へ出た。
夏の照りつける陽射しはやっぱり眩しく日光が苦手なレミリアには酷だった。
どうしてこんな天気に外へ出たのか。
それは彼女のただの気まぐれなだけで特に深い意味はなかったが、照りつける陽射しや汗でベタつく肌のせいでもう嫌になっていた。
溶けてしまいそうな暑さに参っていたところへ、どこからか微風がやって来た。
身体をそっと撫でた風がいつもより涼しく感じ、それはまた格別だった。

「あれ?何か変ね」

レミリアが見た景色がゆらゆら揺れてぼやけていた。
それが何なのか彼女には判らなかったがそれとは陽炎のことだ。
あまり外へ出ることのなかったレミリアは陽炎が面白いらしい。
ふと、揺れているあの場所まで行ってみよう。
そんなことを思い歩き出した。
こんなに陽射しが強くったって、私には傘がある。
怖いものなんてないわ。
今冒険に出た彼女の背を、陽射しが強く照らした。



●○●



昔、誰かが私にこんなことを言った。

“陽炎を追ってはいけないよ。幻を追うと帰ってこれなくなってしまう”

ある話の中で、砂漠の景色にゆらゆら揺れるオアシスが突然地平線の彼方に現れた。
砂漠の中のオアシスとなればもちろんそこへ辿り着こうとするだろう。
しかしオアシスは陽炎によって造り出された幻で、追っても一生辿り着けないのだ。
真実なのか迷信なのか、どちらにしろ私は陽炎を追うことはないので関係ない。
では、彼女はどうなのか。
この言葉を聞いたことのない彼女、レミリアは陽炎を追って今はどうなったのか。

「ダメだわ…。もう…帰ろ…」

結構な距離を歩いたはずなのに揺れる景色に辿り着けないでいた。
陽射しを浴び続け体力的にも限界だと思ったレミリアはそこで踵を返し、また暫く歩き続けたところで気付く。
彼方でゆらゆら揺れている自分の館に向かって歩いているのに、全く近づいていないことを。
いくら庭が広いとはいえ、全く館に辿り着かないのは可笑しい。
揺れる館は確かに近く感じるのに。
何かの間違いだと思いたいレミリアは諦めずにまた歩き続けた。
自分の体力の限界が警鐘を鳴らし続けるが、ここで歩むのを止めると帰れなくなる気がして進むしかなかった。
空を飛べたら帰れたかもしれない。
しかしそんな体力はもうない。

「……私……もう帰れないの?」

呟くと、レミリアの足は止まっていた。
もう、限界だった。



●○●



「お嬢様。レミリアお嬢様―…」

誰かの呼ぶ声がする。
微かな意識の中で“レミリア”という単語をはっきり捉え、重たい瞼を開けると

「……咲夜?」

そこには今にも泣きそうな咲夜の顔があった。
こんな咲夜の顔、見たことない。
まだ朧気な意識で彼女は思った。

「そんなに……心配しなくたって―」
「お嬢様の馬鹿…」
「え―」

咲夜がレミリアに対してそんな言葉を返すことなんてなかった。
だからレミリアはその後咲夜の腕の中に落ちても呆けたままの顔をしていた。

「貴女のこと、私が心配しないとでも思ってるんですか…っ…」

そして咲夜は、泣いていた。
普段から泣くことがないあの咲夜がまさか目の前で泣いているだなんて、レミリアは未だに信じれそうになかった。
あまりの唐突さに困惑してしまう。
しかし先程、もう帰れないかもしれないと思った時の悲しみや孤独感を振り返ると、人の温もりを肌で感じられている今は、咲夜の腕の中で安心しきった表情を見せた。

「ごめんなさい、咲夜。……ありがと」

ぎゅっ、と咲夜の服を掴む。
これが幻ではないことを、しっかりその手で確かめて。



●○●






後書きという名の補足。



レミリアのリクエストでした。
投票してくださった方、ありがとうございました!
今回の話は切なくない……よね?
じゃあ明るい話か?と言われるとそうでもないような気がしてきましたが、これでよしとします。←
季節感を重視して陽炎をキーワードにしてみました。
幼い頃、陽炎を追うなと教わったような気がするのでそこからこの話を思い付きました。
近づいても全く近づけない現象は、陽炎ではなく逃げ水って現象です。
本編では陽炎と言っていますが、多分逃げ水って言葉の方があってるのだと思います。
逃げ水は、目の前の水溜まりに近づいても向こうへ水溜まりが遠退いてしまう現象です。
だから追っても追っても辿り着けないんですね。
前に図鑑で逃げ水を見たのですが、写真を見る限りでは幻想的な感じがしました。
ちょっと神秘的かもな…と。

最後にレミリアは咲夜に辿り着くことが出来ましたが、タイトルの「オアシスを見つけた冒険者」というのは「咲夜を見つけたレミリア」という意味でした。
そのままです。
またはそれを安直と言います←

いかがでしたでしょうか?
若干いつもより本編が短めですが手を抜いた訳じゃないです(^^;
このくらいの長さの方が今回はいいかなと思ったので。
ここまで読んでくださりありがとうございました!

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