雨傘ジェラシー(前)



●○●



「今日も雨ね。嫌な天気だわ」

彼女は窓の景色を見て呟いた。
全体的にどんよりとした幻想郷の光景が広がっていた。

「でも日光はないから最高ね」

腰掛けていた椅子から立ち上がり、服を整えて部屋を後にした。



●○●



ドタドタという足音が咲夜の耳に入ってきた。
おやおや、どうやらお目覚めのようですね。
咲夜は近づいてくる足音の主を想像した。

「咲夜、お姉様は!?」
「お早う御座います。妹様」

想像通りフランドールだった。
朝からとても元気な登場に、咲夜の仕事の一つ「妹様の体調確認」は良好という報告で良さそうだ。

「お姉様はもう行ってしまったの?」
「えぇ、つい先程いつものように行かれましたよ」

今二人がいる場所は玄関に一番近い廊下。
咲夜は玄関側から来たようなので、レミリアを見送ってきたのだろう。

「そう……分かったわ」

フランドールはぼそっと呟くとそのまま玄関の方へ歩いて行ってしまった。
本来ならここで彼女を外へ出さないように咲夜が玄関へと向かわせないのが普通だが、咲夜は止めずにとぼとぼと歩くフランドールの後ろ姿を見つめていた。
止めなくても今日は雨が降っているので大丈夫だろうという思いと、今はそっとしておいた方が良さそうという思いから、寂しそうな小さな背中を見送った。



●○●



「お姉様ったらヒドイ!」

不満たっぷりな少女の声が玄関先に響いた。
BGMには雨の音付きで。
何を言ってもレミリアが帰ってくるわけでもなく、ただ虚しさだけが心に残った。

「どうして雨なんか降るのよ……なんで雨の中お姉様は出かけていくの……晴れてる日は出ていかないくせに」

紅魔館には遊び相手がいる。退屈はしない。
みんな忙しそうだけど相手をしてくれる。
最近は魔理沙がよく訪れるようになったから無理矢理弾幕ごっこをさせたりもする。
あまりやり過ぎると、館が壊れるでしょ、とお姉様に怒られるので最近は外のお話を聞いたりしてる。退屈はしない。

「バカ……お姉様のバカ」

やっぱりお姉様と遊びたい。
もっとお話を聞かせてよ。
なのにどうして最近お外へ出るの?
あんなに日に弱いからと霧まで出していたお姉様が、ねえどうして?

「……あ…」

その時、フランドールの目に写ったのは壁に立て掛けられた一本の傘。
レミリアが晴れた日に外へ出る時は日傘をさして出かけていたのを思い出した。
そうか、お姉様は傘をさして雨の日も出かけるようになったのね。

「こんなちっぽけな傘で」

暫くその傘を見つめていた。
表情はとても冷たい。
空はまだどんよりとしている。

「こんな傘があるからお姉様は私と遊んでくれないの…」

空からゴロゴロと音が鳴り出す。
まるで少女の感情と同調するかのように。

「どうしてこんな傘が私からお姉様を奪っていくのよっ…!!」

鋭い閃光が走った。

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