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サイハテ
02




「あら、おかえり。今日もご飯、先食べちゃったわよ」

「うん」

ゆったりとソファに腰かけている母さんに、小さく返事をする。


リビングテーブルは片付いているけど、煮物が小皿に取り分けられてちょこんと置いてある。
伏せられたお茶碗にガラスのコップ。


それを見て、ひどくホッとする。


「サスケは早く帰ってくるのに…あんたももうちょっと早く帰れないの?」


――今、この場で彼と顔を合わせなくていいから。


「明日は、早く帰るから…」

「いつも言ってるじゃないそれ。まぁ、気をつけて帰んなさいね」

心配の音色を滲ませる母の声に、オレはいつもウソをつく。

ごめんなさい、と胸の奥で謝りながら。







ご飯を食べおえて、おもしろくもない番組を眺めてから、のろのろと部屋に戻る。

肩に引っ掛けたリュックがやけに重たくて、足取りも重たい。


だって――


「おかえり」

「っ……」


今日も遅いオレの帰りを、待ってる兄がいるんだ――


「……ぁ…ただ、いま…」

自分の部屋のドアにもたれ掛かるようにして、まごつくオレをじっと見ている。

視線が、痛い……


「遅かったな…」

「あ、…うん……」


チクチク、身体中に鋭い針先を突きつけられているみたいに、痛い。
その錯覚的な痛みから逃げるように、俯いた。

冷たいドアノブに手をかける。


――耐えられない


「なぁ……」

「え……、っ!」


嗅ぎなれた香水の香りがふわりと近づいたと思えば、手首を掴まれた。


ドンッ

ギリギリと捻りあげられて、浮いた身体ごと壁に押し付けられる。


「ぃっ……」

「お前、オレのこと避けてるだろ」

「っ……そんなこと…」

「ちゃんと目をみろ」


強い口調で言われて、ゆるゆると目線をさ迷わす。

視点が定まらない中でみえる、射るような漆黒…



――嫌だ

――これ以上





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あきゅろす。
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