最果て
05 契機
「ナルちゃん。今日は母さんたち遅くなるから」
「ええー?」
「久しぶりに食事でも行こうかって、父さんがね。…悪いけど、夕飯は自分たちで済ませてね」
玄関で靴を履きこむナルトに母は嬉々として微笑んだ。
嫌、なんて言えるはずもなく。
「……うん」
「さっくんにも言っておいてね」
サスケとは一緒に登校することはない。ナルトが起きる前に悠々と先に出ていってしまうからだ。
「わかったってば。母さんたちは楽しんで来て…」
サスケとふたりきり――
何年ぶりだろう。ふたりだけで食事をするのなんて。
嫌なような。嬉しいような。
気まずいかな。
またそっけなくされるかな。
でも、もしかしたらこれは契機かもしれない、とナルトは考えた。
*
「たまごに…生クリームに……あとは、たまねぎ」
学校帰りの制服のままで、ナルトは買い出しに来ていた。
自分たちで作らなければならない夕食。
サスケは生徒会の仕事があるので、ナルトより遅く帰宅する。
だから、と。
(サスケの好きな、オムライス…頑張って作るんだ)
ホワイトソースがかかった、半熟卵が美味しいオムライスを思い浮かべながら、にへらぁ、と微笑むナルト。
(ふたりで食べて、んで、美味しいって言ってくれて…少しでも話せるといいな)
料理は親に任せっきりで、作ったのは家庭科の授業でくらいしかないのだが。
それでも片手に拳を掲げ、「がんばるっ」と呟く少年。
通りすがったおばさんに「頑張って、坊や」と言われて、さっと顔を赤らめた。
「はずかしいってば……あ、」
野菜コーナーに隣接する、果物が並んだ棚。
中段には、赤く熟れた苺のパックが爛々と並んでいた。
「うわあ、うまそー」
そういえば、サスケは苺も好きだったよな…と思い出す。
(昔、よく一緒に練乳かけて食べてたっけ…)
比較的キレイなものを慎重に選んで、近くにあったコンデンスミルクもいっしょにかごへと入れる。
期待に胸を膨らませてレジへと向かっていった。
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