最果て 04 * 幼い頃からいつも傍にいた。 なにより一番近い存在で、何でも言いあえて、わかりあえて、頼れるお兄ちゃん。 だけど、いつからか。 サスケはだんだんとそっけなくなっていった。 家でもあんまり喋らなくなったし、クラスに行っても適当にあしらわれて。 それはあの日を境にもっとひどくなった―― あれは、受験を控えた中三の夏のときだった。 耐性のない俺は、あの日もうつらうつらと机で眠ってしまっていた。 寝ぼけながらも風呂に入って、すぐにベッドで寝てしまいたくて、部屋に戻ろうとしたけど。 隣のサスケの部屋からわずかに光が漏れていて、起きているんだとわかった。 俺はぼうっとした頭のままで、ノックもなしに扉を開けた。 「サスケってばまだ勉強してんの?」 勉強机に座ったサスケが、驚いたような表情をしてこちらを見た。 整った顔立ちが、薄闇でもはっきり見える。 「ナルト…まだ起きてたのか」 「ん〜、机で寝ちゃってて…さっき風呂入ってきたんだ」 ――月のひかりが、綺麗だった。白いシーツを照らしている。 ふわふわと眠気が襲い、誘われるようにベッドに近づいた。 「ふぁっ…ねみぃ…」 ぱふん、と沈む。気持ちがいい。 「さっきまで寝てたんだろ」 「でも眠いってば…う〜」 枕もひんやりしていてとても心地よかった。 サスケのニオイがする―― ひさしぶりに近くで嗅いだその香り。せっけんのような、清潔で男らしい。 本格的に眠くなって、身体が重くなる。さらにシーツに抱きついた。 「ん……」 うとり、と瞼を閉じかけると、バンっ!という扉の開く音がして―― 「サスケー…?」 サスケはどこかへ行ってしまっていた。 なにか怒らせるようなことしたかな、としばらく待っていたけど、戻ってはこなかった。 翌日、俺が弁当を持ってクラスに行くと、サスケはこちらも見ないままつっけんどんに、言った。 「お前もう来んなよ」 と。 「え…なんで?」 「友達いねーわけじゃねえんだから。それに休み時間も勉強するから。集中したいんだよ」 「でも…」 「部屋にもしばらく入ってくんな」 あまりにもいきなりのことで、戸惑いつつもしぶしぶ返事をした。 「…わかった」 勉強が理由なのであれば、邪魔をしたくはなかった。 だから、食事のときとか、なにげない隙に話しかけてみたりしたけど、「ああ」などの一本槍で、ますますそっけなくなっていった。 * そしていつのまにか、言葉すらも交わさない日々。 同じ高校を受けたのはいいけれど、ぜんぜん話しもしないし関わりももたない。 家でも、同様だ。 そりゃ寂しい。 たったひとりの兄弟で、かけがえのない家族なんだ。 話したいし、触れあいたい。 だから、俺は信じたい。 いつの日か、昔みたいに――また、笑い合える日が来るって。 *back*next |