50000hit企画 ラバーズ(浮気美形×内気平凡)1 俺には大切な恋人が居る。彼、令二(れいじ)は幼なじみでもあり、昔から誰よりも俺のことを理解してくれる人。 顔立ちもぱっとしてなくて、内気で引っ込み思案な俺。そんな俺とは対照的に、かっこよくて明るくて誰からも人気者の令二。 そんな、全然違う俺たちだけど令二はずっと俺の側に居てくれた。そしていつしか俺たちは、ただの幼なじみ同士ではなくなった。高校に入ってから令二が突然告白をしてきたのだ。 冗談かと思ったけれどそうではなくて、俺は混乱した。 最初は、令二に対して恋愛感情なんて全くなかった。 だけど、俺には令二が必要で。 捨てられたくない、その一心で俺は令二の恋人となることに決めた。 けど、今は違う。恋人同士になって、途端に甘くなった令二。大好き、と幸せそうに言ってくれる。そんな令二と一緒に居る内に俺は、今やすっかり令二のことが好きになっていた。恋愛的な意味合いを持って。 俺は毎日幸せで幸せで平和ボケしていた。 令二の様子がおかしなことも、最近になってやっと気付いたんだ。 ゛ごめん、急にバイト入っちゃって明日遊べなくなった。本当にごめんね゛ 土曜の夜。明日は令二とデートだからってワクワクしていたのに。令二からメールが着てがっくりしてしまった。 最近、令二の付き合いが悪い。こうして、バイトを理由にデートをキャンセルされるのは何回目になるのだろう。 本当はショックだ。 また?って言ってやりたい。 けど、わがままは言えない。面倒なやつと思われたくない。 ゛そっか、気にしないで。バイト頑張ってね゛ いい子ぶったメールを送信して、俺は小さなため息を吐いた。 「一樹(いつき)ー!おはよう」 「おはよう」 「あれ?令二は?」 「遅れてくるって」 クラスメイトの明るい挨拶に、朝から元気だなあと思いながら返事を返す。 俺はいつも令二と一緒に登校しているけど、今日は具合が悪いから遅刻していくと言われて、俺ひとりで学校に来た。 令二、昨日のバイトで疲れたのかな… 「そういえば、俺昨日令二のやつ見たよ」 「そうなの?」 友人がそう言ったから、てっきり令二のバイト先にでも行ったのかと思った。けれど。 「あいつ駅前でさー、なんかすげえ可愛い子と手繋いで歩いてたよ」 え? 「な、何時ごろ?」 「んー昼過ぎかな。まじで、一緒に居た子すげえ可愛かったんだって!最初女の子かと思ったんだけどさ、よく見ると男なの」 昼過ぎ…。 昨日令二は、朝から夕方までずっとバイトだって言ってたのに。 それに、可愛い男の子って…誰? モヤモヤと、黒いものが胸に流れ込んでゆく。 黙り込んでしまった俺を気にせず、友人は話を続ける。 友人は、というか誰も俺と令二が恋人同士だなんて知らないから、なぜ俺が黙り込んでいるのかなんて気付きもしないだろう。 「いやー、声かけようと思ったんだけどさ。あっちは俺のことに気付いてないし、なんか美形二人が歩いてんの邪魔すんのもなと思って出来なかった」 「…そう、なんだ」 「あれ、一樹大丈夫か?なんか顔色悪いよ」 もしかして、嫌な考えが頭を過る。 心配そうな友人に愛想笑いを返して、俺は静かに自分の席に着いた。 「令二ぃー遅えよ」 「今さら来たのかよー」 三時間目の授業が終わったあと、令二が教室に入って来た。 人気者の令二はすぐにクラスメイトたちに囲まれるが、俺と目が合うとすぐに人を掻き分けて俺の側に来てくれた。 「おはよう、一樹」 いつもの、優しい笑顔だ。 「おはよう…令二」 「今朝はごめんな。あと昨日も…近いうち埋め合わせするから」 「ううん、良いんだ…体調大丈夫?」 「大丈夫。ありがとう」 頭を撫でてくれる手も、いつも通り優しくて。 さっきの話はきっと何かの間違えだ。令二が裏切るようなこと、するわけない。 そう、言い聞かせたのに… 「…っ!」 「一樹、どうしたの?」 「…な、何でも、ないよ」 見えてしまった。 ワイシャツから覗く令二の鎖骨の下、明らかなキスマーク。 嫌な考えが、頭の中を支配して、確実な物となっていく。 それ何?キスマーク?って訊いてしまえば良いのに。…訊けない。 傷付くのが嫌な俺は何も言えず、やっぱり誤魔化して愛想笑いを浮かべてしまった。 「いらっしゃいませ」 着物を着て、丁寧にお辞儀をしお客様を迎え入れる。 俺の実家は伝統のある老舗の着物屋で、俺はこうして時々店の手伝いをしている。 「一樹、少し休んでいいぞ」 「はい、父さん。失礼します」 父親は厳格な人で、俺は小さな頃から厳しく育てられた。昔気質の人なので、同性愛のことを認めて貰うのには時間が掛かるかもしれない。 令二と恋人同士であることはまだ伝えることが出来ないけど…いつか、俺が一人前になったら胸を張って、この人が俺の好きな人だと令二を紹介したい。 店の奥に入って休憩をしていた時、俺の携帯が鳴った。 メールだ。それも、一樹から。 ゛今から俺の家来れる?゛ あの、キスマークを見てしまった日から数週間が経っていた。 相変わらず令二の付き合いは悪くて、でも一緒に居ると凄く優しくて。 俺は未だに何も言えず、あの日見た物を忘れようと自分に言い聞かせていた。 まだモヤモヤは消えないけど、久しぶりに令二から誘ってくれたことが嬉しくて。俺はすぐに゛今行く゛と返事をした。 店の二階の居住スペースに上がって自室で着替えて、俺は令二の家に向かった。 令二の家はすぐ近所で、数十メートル先にあるオシャレな一軒家。幼い頃から、もう何度も訪れている。 はやる気持ちを抑えて呼び鈴を押すが、何故か返事がない。 令二が呼んだのにと思いながらドアを引くと、鍵が開いていた。 勝手に入るのはマズイかなと思ったけれど、令二の部屋の電気が点いているし居るんだろうと思って玄関に入ってしまった。 …よせば、良かったのに。 玄関には、見慣れた令二の靴。そしてその隣には… 「…誰の?」 令二の物より一回り小さな靴が置いてあった。 さあっと身体中の血の気が引く。 嫌な想像が頭を支配する。 まさか、そんなはずがない、考え過ぎだ。 俺は、自分の靴を脱いで令二の部屋へと向かった。 階段を上がった所で、耳に小さな声が届いた。 聞いちゃダメだと頭が警報を鳴らす。今すぐ帰れと。 けど俺は、令二の部屋のドアの真ん前に来てしまった。 「…んっ、あ…あん…令二ぃ…っ…」 「…うるせえな、でけえ声出すんじゃねえよ」 「やっ…あ、だってぇ…あ、あ…きもちぃっ…」 「っ…う…」 聞こえたのは見知らぬ誰かと令二の、明らかに行為中の声だった。 脳が理解するのに、時間がかかる。 なんで?嘘だ、こんなことって… 令二、これを聞かせるために、俺を呼んだの? 馬鹿みたいじゃん、令二の誘いに浮かれて、すぐに飛んできた俺。 惨めで、悔しくて、憎らしくて。…傷付いた。大好きな令二に、こんなに酷く裏切られて。 心臓が、えぐられたように痛む。 部屋に乗り込む勇気のない俺は、そのままドアの前にしゃがみ込んで。ショックのあまり涙も流すことが出来ずにじっとしていた。 それから何分経ったのだろう。 行為を終えたらしい二人の会話が聞こえた。 「はー…凄い気持ち良かった。ねえ令二、一緒にお風呂入ろ?」 「無理」 「だーめ!一緒に入るの。…あ、そうだ。あの子今どうしてるかな」 「…あの子?」 「そう…、一樹くん、だっけ」 「一樹がどうした!?てめえ一樹に何かしたのかよ!?」 なに…俺の話してるの?なんだか、よくわからない…内容が入って来ないんだ。さっきから、頭が理解能力を失ってるみたいだ。 …なんだか、令二が怒っていることは声の荒さでわかった。 「令二ってば焦りすぎ〜。別に大したことしてないよ」 「ざけんな!一樹には何もしないって約束だろ!!」 「だから大したことしてないって。ただ、令二の携帯を借りてメールしただけだよ。…今から家に来てって」 「…まさ、か」 バタバタと音がしたかと思ったら、令二の部屋のドアが勢い良く開かれた。 「い、つき…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |