魔法使いヘンゼル
魔法使いヘンゼル5
真夜中、魔女は、2人が寝ている部屋に忍び足で向かった。
「ふふふ、久しぶりの肉だよ…ここまでいいにおいがただよって来るね…」
そう言って、とんがった鼻をヒクヒク動かした。
部屋のドアの前まで来たとき、中から話し声が聞こえた。
「チッ、子どものくせにこんな時間まで起きてるのかい…親はどんな教育をしてるんだい」
ヒソヒソ文句を言いながら、魔女は聞き耳を立てた。
「ヘンゼル、わたし、おうちに帰りたくないわ」
「どうしてさ?」
ヘンゼルがびっくりした声をあげたけれど、ヘンゼルよりびっくりしたのは魔女だ。今までこの家に来た子どもで、帰りたがらなかった子なんていない。
「わたしたちが帰ると、おばあちゃんは1人ぼっちになっちゃうじゃない」
「…!」
魔女は、胸がしめつけられる気がした。ドアにふれている手が震えだしたので、ドアから離した。
「なんだ、そんなこと」
そう言ったのはグレーテルだ。
「おいらたちが、たまに遊びに来ればいいだろ。ちょっと迷いそうだけど、明日ばっちゃんに送ってもらうとき、道をよく覚えとけばいい」
さ、もう寝ろよ、という声してからしばらくして、スースーと2つの寝息が聞こえてきた。
魔女は、だまってドアから離れた。
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