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頂き物
Ryi様より
「――――危ない…っ……ひめ…っ…!」


――――――――――斬…ッ………


「―――小狼君ッ!!」

「―――小僧……っ…!」

「―――小狼、小狼っ?!」

「―――……………しゃ…お……」




「―――ひ…め…? ……よか…った………無事…で…――――――」





「―――――――……しゃおらん、くん…? …しゃ…ぉ……っっ」







「……っ…いやぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁああ―――――――――――――――!!!!!」







………今度たどり着いた国は、戦の真っ最中で、さらに悪いことに、落ちた場所が、戦場の真ん中だった。そんな状況下において、戦うすべを持たないわたしを、身を呈して守った小狼くんは、背中に深い傷を負ってしまった。

「―――サクラちゃんとモコナは、見ない方がいいかも……。――結構、ひどいことになってる……」

やっと体を休めることが出来そうな宿を見つけて、小狼くんをベッドに寝かせたファイさんが、その傷を見て言った最初の言葉が、それだった。いつだって笑顔なはずのファイさんが、表情に焦りを滲ませていて。それが、わたしの不安を大きくした。

「……姫と白まんじゅうは、隣の部屋で待ってろ。治療が終わったら、呼んでやる」

黒鋼さんに、そう促されて、わたしはモコちゃんを連れて隣の部屋に入った。






「―――……ら…くん、小狼君、聞こえる?!」

焼けつくような痛みで、霞がかった思考の向こうから、焦ったようなファイさんの声が聞こえて、おれは思い瞼をうっすらと持ち上げた。どうやら、横向きに寝かされているらしい。少し上の方に、ファイさんと黒鋼さんの顔が見える。ファイさんは、ほんの少しだけほっとしたような表情を見せて、汗で張り付いてしまった額の髪を払ってくれた。

「―――よかった、意識があって…。目が覚めなかったらどうしようかと思ったよ〜」

冗談めかしてそういうファイさんの声は、いつもより硬い。いつにもまして、眉間にしわを寄せて険しい顔をしている黒鋼さんが、ため息をついた。

「―――きちんと剣で受け止めろ。……死ぬところだったぞ」

「…………すみ…ま…せん……」

切れ切れの声。それすらも、傷に響いて、息が詰まる。そんなおれを見て、ファイさんが表情をゆがませると、言った。

「……小狼君、キミの背中の傷、深くて、包帯で縛るだけじゃ、血が止まらないんだ。縫わなくちゃ、いけないと思う。けど……―――ここには、医療道具はほとんどないし、お医者さんもいない。だから、オレたちがしなくちゃいけない。だけど、オレたちはこういうのに関しては素人だから……きっと、すごく痛い。痛いどころじゃないかもしれない……ごめんね」

自分が痛そうな顔をしているファイさんに、大丈夫です、と唇の動きだけで伝える。そして、すとん、と瞼を閉じた。何かを見ることさえ、億劫に感じて。……知らず知らずのうちに、自分の手が、シーツを強く握りしめていたことに、いまさらながら気付いた。





『〜〜〜〜〜っっ!!』


「――――――――っ……!」

ベッドの上で、小狼君たちのいる隣の部屋と、この部屋とを隔てる壁に寄り掛かっていると、ファイさんと黒鋼さんの、どこか切羽詰まったような声と、声にならない小狼くんの悲鳴が聞こえてきた。あまりにも痛々しい空気の震えに、耳をふさぎたくなる。

「……しゃおらん…」

そう寝言を言っているモコちゃんは、ずっと泣いていて、泣き疲れてしまったのか、さっき眠ってしまった。まるくて暖かいモコちゃんをだっこしていると、少しだけ、気持ちが救われる。腕のなかに、モコちゃんを抱きかかえたまま、立てた膝に顔を埋めた。……こうでもしていないと、泣きだしてしまいそうだった。泣きたいのはきっと、小狼くんの方なのに。
そう思って、唇を強く噛み締めた、その時。

――――……コンコン……

わたしの部屋のドアを、控えめに叩く音がした。わたしは、ゆっくりと顔をあげる。

「―――は…い……」

泣きだしそうな、かすれた声で返事をすると、

『―――サクラちゃん? 入ってもいいかなぁ〜?』

と、ファイさんの、少し疲れの滲んだ声がした。それを聞いた瞬間、わたしはモコちゃんを抱っこしたままベッドを飛び降り、飛びつくような勢いでドアを開けた。扉の向こうには、ファイさんと黒鋼さんがいて、どちらも少し驚いたような顔をしている。だけど、そのことを考える余裕も、いまのわたしにはなくて。

「……小狼くんは?! ファイさん、黒鋼さん、小狼くんは―――」

取り乱したまま、泣き叫ぶように、そうたたみかけるわたしの頭を、ファイさんが優しく撫でる。そして、その手をわたしの肩に置き直すと、わたしに視線を合わせて、言った。

「―――サクラちゃん、小狼君は大丈夫だから、落ち着いて。ちゃんと、血は止まったし、命にかかわるほど深い傷じゃなかったみたいだから」

「………はい…」

いつもと同じ、優しいファイさんの笑顔に、わたしは少しほっとして、詰めていた息を吐いた。すると、今度は黒鋼さんの大きな手が、ぽん、とわたしの頭の上に置かれた。びっくりして顔をあげると、いつもより疲労の影の濃い顔をして、黒鋼さんが口を開いた。

「………あんだけでかい傷だと、熱が出るかもしれねぇ。……ついといてやれ」

「―――はい……っ…」

熱が出るかもしれない、と。それを聞いたわたしは、ファイさんにモコちゃんを預けると身をひるがえした。おなかがすいたら、ご飯食べに来てね〜、というファイさんの声に、軽くうなずいて、わたしは小狼くんのいる部屋の扉を開けた。―――部屋の中から流れ出てきた、冷たい空気は、微かに、血の匂いがした。

「――――しゃおらん、くん……」

ベッドに横たわり、瞼を堅く閉じて、荒く浅い息をつく小狼くんに、そっと呼びかける。眠っているのだろうとばかり思っていたけれど、わたしの声に、小狼くんは、うすく眼を開いた。


「――――――……さく…ら……ひ、め……?」


苦しそうな息の下から、まるで存在を確かめるかのように、小狼くんがわたしの名を呼んだ。眠りたくても、傷が深すぎて眠れないのかもしれない。わたしは思わず、ベッドの横に跪(ひざまず)いて、わたしより少し大きな、いつもより熱い小狼くんの手を握りしめた。膝立ちの状態なので、眼と鼻の先に小狼くんの顔がある。いつもなら、照れて俯いてしまうような距離だったけれど、いまは、小狼くんから視線を外すことが出来なかった。……うるんだ、力の無い瞳をした小狼くんが、ひどく脆(もろ)く、儚いモノに見えて、怖かった。震える両手で握りしめたその手を、自分の額に押し付ける。生きていてくれてほっとしたのと、辛そうな姿を見てしまったのとで、泣いてしまいそうだった。しばらくそうしていると、ふと、さらり、とわたしの髪をかき撫でて、何かがそっとわたしの頬に触れた。はっと顔をあげると、小狼くんが、空いている方の手で、わたしの頬を撫でている。なんども、何度も。その表情は、とても、穏やかで―――……

……――――やさしい、優しい微笑みをたたえていた。

「―――――……っ…」

なんて、なんて優しい人なんだろう。なんて、つよい人、なんだろう。その微笑みを見た瞬間、それまでこらえていた涙が、堰を切ってあふれだした。子供のように、声もなく泣きじゃくるわたしの頬を、小狼くんは、困ったように、それでも優しい微笑みを浮かべたまま、なんども何度も、ぬぐってくれた。

「―――――――…っ………」

わたしは、しゃくりあげながら、小狼くんの頬に片手を添えた。小狼くんは、困惑したような表情を浮かべる。それを見て、わたしは泣き笑いを浮かべた。
……小狼くんは、いつも、つらい時に、つらいと言ってくれない。
哀しい時、苦しい時に、弱気なことを言うことだって、絶対にしない。
自分よりも、他の誰かを大切にしてくれる。

―――言いたくないのなら、聞かないけれど。
だけど、こんな時くらい。
………痛くて、苦しくて、眠ることもできない、こんな時くらい、どうか――――……




…重なる影。


視線を、逸らすこともせずに。
さらりと、少年の、血の気を失った頬に、少女の髪が零れ落ち、
そして――――――――――――………









眠れぬあなたに、おやすみのキスを

      (……どうして、さくらが泣くんだ)
      (……だって、あなたが微笑うから)
    

            ――――祈ったのは、あなたのシアワセ≠セった…




end

うわぁ、うわぁ!こんな素敵な小説ありがとうございます!せっかくなので載せさせて頂きました。そうですね、私も原作の時間軸ではせいぜい瞼か頬にしかキスさせませんね。ていうかこの二人はそんな親愛的なキスの方がなんかしっくりきます。私は。…しかし私はお礼品貰ってばかりです。なんか嬉しい、泣いちゃいそうです。ともかく素晴らしい小説ありがとうございました!

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