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011


 
「以前のように花を想う気持ちも無いし、体も羽のように軽い」
「そうか。呪が解けたんだな。良かったな」
「ただ話を聞いて、この桜の木には…女の魂には悪いことをしたような気がする」

 自分のせいではないといえ、事情が事情なだけに責めることが出来ない。
 それに想われる気持ち、何処かで感じていた。だからこそあんなにも花を愛していたのだと思う。花を愛すことで自分を思い出して欲しい。そんな切な気持ちが。
 龍笛と桜の木を見比べている宗昌に、杜若がそっと告げる。

「女の魂は私に告げています。“申し訳ないことをした”と」
「…それはもういいんです。ただ俺を想い続けてくれた人に何かしてあげたい」
「お前、お人好しだな。殺されかけたんだぞ」
「そうだけど、俺を好いてのことだろ…何か出来ませんか?」


 すると杜若が微笑んできた。


「“龍笛を私の為に吹いて欲しい”。それが願いだそうです」
 
 
 杜若の言葉に一つ頷くと、2人っきりにさせて欲しいと皆に告げてくる。
 流石にそれは、先程殺されかけたばかりだ。もしかしたら2人っきりになった途端……時文は顔を渋るが杜若は願いを聞き入れた。
 

「きっとお喜びになります。櫻(さくら)さんも」

「女の名ですか? とても…良い名ですね」


 宗昌は綻んだ。




 少し離れた場所、宗昌の視界に入らない場所に移動した時文は大丈夫かと不安を抱いていた。
 しかし杜若が大丈夫だと断言した為、時文は安堵の表情を見せる。杜若が大丈夫と言ったのだ。きっと大丈夫だろう。杜若に礼を言えば、首を横に振って三度頭を下げてくる。


「この度は本当にご迷惑をお掛けしました。今後このようなことが無いように2人には言い聞かせておきますので。2人とも、巫女とは何です? 生半可な気持ちと経験では出来ないと云っているでしょう。このように人様にご迷惑を掛けるのですから。巫女は迷惑など掛けてはなりません。人々の助けとならなければならないのです」


「むぅー! でも頑張ったんじゃぞ! いっつも姉様が美味いところとって」

「わ、私は…忠告……」


 脹れる水羅とビクビクしている香澄に反省の色が見えない。
 杜若は静かに溜息をつくと指を鳴らした。すると近くの木の根が伸びて2人を掴むと幹に縛り付けてしまう。時文が冷汗を流す中、杜若は騒ぎ始める弟子達に「反省するまでそうしてなさい」とぞんざいに言い放った。
 

(女って恐いな…そういえば、宗昌…嫉妬心で殺されそうになってたし)


 今しばらく、舞い込んでくる縁談を断ろうかな。
 女の恐さに身震いをしてしまう時文だった。
 




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あきゅろす。
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