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009


 
「だから! 水羅様! 止めておきましょう、と私は申したのに!」
「煩い香澄! お主も途中から乗り気だったじゃろ!」
「私はずっとずっとずーっと止めようとしてました! 私たち、み、み、未熟巫女なのにー!」


「未熟巫女? ……あの、先程から、何を申して」


 時文の問いに2人は顔を見合わせていたが、軽く咳払いをすると水羅はハッキリ告げてくる。

「怒るでないぞ。妾達は巫女じゃ。巫女じゃが、半人前じゃ」

 冗談だろ。
 時文は顔を青くする。

「…そんな馬鹿な。だって巷で有名だって」
「えっと…それはその……えーっと…ごめんなさい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。だったら宗昌、助からないのか? 原因は分かったじゃないか!」
 
「先程、水羅様が原因を透視できたのは偶然なんです。普段は失敗ばかりなのですが…今回はたまたま成功して……それで私たち、このような状況になったらどうすれば良いか。対処を知らないんです」


 な、何だそりゃ〜〜〜〜!
 
 巷で評判というあれは空言だったということか!


 絶句を通り越して青筋を立てる時文は、懐から扇を取り出し軽く手を叩きながら口元を引き攣らせる。
 黒いオーラを取り巻く時文に香澄は涙目になり、水羅の後ろへ隠れる。水羅は「落ち着くのじゃ!」と宥めた。

「こ、れ、が、ッ、落ち着いていられる状況かッ。さあこちらに来い。扇の鉄槌を下そう」
「女子(おなご)に手を上げる行為は如何なるものかと思ッ、あー……妾達はそれ以上のことをしたかもしれんのう」
「うぇーん! 水羅様が悪いんですよー! 私の忠告をお聞きにならないから!」
「香澄! 主だけ逃げる気か!」


「安心しろッ、どちらにもくれてやる」


 どすの聞いた声で見据えてくる時文に、こんなことをしている場合ではないと水羅が言う。
 こうしている間にも龍笛を奏でる宗昌の生命は奪われている。
 水羅の言葉に、どうになるのかと訊ねるが顔を顰められた。このままでは心腹の友はあの世に逝ってしまう。焦りが募り2人にどうにかしろと催促するが、2人も焦っている。

 嗚呼、こんなことならばもっと調べて巫女のもとを訪れるのではあった。
 
 自責する時文は宗昌の言葉を思い出す。


“本当に花を正室に迎えられたらな。花と共に死ねたら本望”
 

 あんなにも桜子と結ばれたがっていたのに、変貌してしまった友。
 自分は友に何も出来ない。




「あの桜はあの青年に恋している…桜には女の魂が篭もっております」




 凛と静かな声が時文の鼓膜を微動する。
 声の方を見れば水羅や香澄と同じ緋袴を着用している女。2人が青くなっている中、女は時文に“杜若(かきつばた)”と名乗り会釈すると桜に歩み寄る。
 




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