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006


 
「どのように悪いのじゃ?」
「お、俺はちょっと調子が悪いだけだと思ってるんですけど」

「宗昌」


「…ッ、いえ結構……かなぁ」 

 
 巫女・水羅に事情を説明していた宗昌は、時文から睨みを飛ばされた為に話が尻切れになる。
 あやふやな説明をする宗昌では水羅を混乱させるだけだ。代わって時文が簡潔に説明をすることにした。
 その間決まり悪そうな顔をしている宗昌は目を泳がせ、同じようにばつ悪そうな面持ちを作り四隅に座っている香澄と目が合い曖昧に笑って会釈。香澄も会釈して困惑気味に笑っている。

 横目で見ていた時文は宗昌に呆れながらも、水羅にしか聞こえない声で説明を加える。

「実はこいつ、1ヶ月程前を境に変わってしまったんです」
「変貌したということじゃな?どのようにじゃ?」
「骨柄は変わっておりません。ただ花に溺れるようになりました。異様なまでに。花弁に、香りに魅せられ、まるで花に恋情を抱いているよう」
「花に恋情…不可解じゃな。そして次第に身体が病んでいったと」
「宗昌はあまり自覚していないようですが」
 
 居心地悪そうに座っている宗昌に視線を送る。時折咳き込む姿に時文は吐息をついた。
 事情を知り水羅は「早速診てみよう」と腰を上げる。

「診てみなければ分からん。今から妾の言うとおりに動くのじゃぞ」
「あ…あの、水羅様…本当に」
「香澄」
「ううっ…すみません…」

 縮こまる香澄に些か時文は違和感を抱いたが、それ以上に宗昌は言いようの無い不安を抱いた。

 何をされるのだろうか。この身、無事でいられるのだろうか。というかもう、帰りたい。

 同じように縮こまる宗昌に時文は「大丈夫だって」と励ます。自分は診られる立場じゃないくせに、宗昌は心中で毒づいた。
 水羅は四隅に置かれている燭台(しょくだい)の灯りに灯し、懐から数珠を取り出した。よく見れば数珠一つひとつが勾玉で作られている。宗昌は中央に座るよう言い、他の者は四隅へ行くよう水羅は命じた。

 不安の色が濃くなる宗昌に大丈夫だと再び声援を送り、言われたとおり隅へ移動する。

 何度か咳払いをすると水羅は、辺りを見回し状況判断。香澄は「ホントに…」と小声で何か言おうとしているが、水羅の睨みに口を閉じてしまう。改めて咳払いをすると水羅は宗昌と向かい合い、組んだ両指に数珠を絡ませ静止。
 静寂が包み込む中、燭台の灯りの微動している炎が大きく揺れ始める。


 肌刺す空気の冷たさ、宗昌の寒心は堪えない。


 しかし次第に視界が霞んでくる。
 胸が締め付けられるような痛みが走り息苦しくなる。数珠が鳴る度に咳が酷くなる。嗚呼、今、自分がどのような状況に置かれているか、分からなくなってきた。





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