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005




 巷で噂されている巫女は都の小さな神社の近くで暮らしているそうだ。


 神社の前を通り過ぎ、二人は古汚い納屋のような建物を目にする。
 納屋というより、まるで社。噂ではあそこに巫女がいるらしい。宗昌は何処か躊躇っていたが、時文は躊躇なく巫女を訊ねた。

 従者が巫女に今日訊ねることを伝達している筈。
 

「お待ちしておりました。時文様でございますね」

 
 訊ねてみれば、礼儀正しく頭を下げてくる女子(おなご)。緋袴が彼女は巫女だと教えてくれる。柔かな表情を作って出迎えてくる女に挨拶をし、早速診てもらうよう頼んだ。
 しかしこの女は噂の巫女ではないらしい。
 彼女の名前は“香澄(かすみ)”。些か困った表情で口を開こうとした。
  
 
「香澄! やって参ったのじゃろ! 通すのじゃ!」

「す…水羅(すいら)様」


 何か時文に告げようとしたが、水羅と呼ばれた女の登場によって香澄から言葉が飛び出ることは無かった。
 「待っておった!」と元気よく笑い、結った長い髪を尾のように振って「こっちじゃ」と手招きをしてくる。香澄が水羅に「あの…」と声を掛けていたが、早く案内するよう催促して駆け出す。
 困り焦っている香澄はオロオロとしながら、時文達について来るよう頭を下げて告げると、大慌てで水羅の背中を追った。
 
 ……自分達は完全に置いて行かれてしまった。
 

 呆然としていた時文は何度か瞬きをし息を吹き返す。 



 噂の巫女はああいう性格なのだろうか。



 “神の化身”と呼ばれているのだから、もっと神秘的でお淑やかなイメージだったのだが。少々イメージが崩れたが腕のある巫女に違いない。
 不安を抱いているのか宗昌は「大丈夫なのかなぁ」とぼやいていた。

「時文。さっきの…。噂の巫女様なんだろ? 俺達より随分…若齢の女子(おなご)に見えたんだけど」
「巷で騒がれている巫女様だぞ。外貌だけで判断するな」
「診られる俺の身になってみろよ。憂慮を抱いて仕方ないッ、アダッ!」
「杞憂だ。大丈夫だろ。さあ行くぞ」
「毎度まいど扇で殴るなって…時文。それ痛いんだぞ」
 
 額を擦りながら尻込みしている情けない公達にもう一度扇の鉄槌を喰らわし、有無言わせず時文は宗昌と共に水羅と香澄の後を追った。





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