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004




 やはり宗昌の身に何かが起きている。

 先を急ごうと時文は宗昌を一瞥した。と、宗昌の姿が無い。たった今まで此処にいたのに。
 何処へ行ったと血相を変えながら辺りを見回せば、時文の視線はある場所で留まり額に手を当てた。ウットリと顔を綻ばせている宗昌は道端に生えている木を見上げ、見事に咲き誇っている花々に見蕩れている。
 時文は宗昌の首根っこを掴むと、大股で道を歩き始めた。
 
「ちょっ、時文」
「こんなところで道草を食っている場合等ではないだろ! 行くぞ!」
「少しくらいいいじゃないか。今日はまだ一度も花を」
「体が優先だ!」

 一喝すると宗昌は「恐いこわい」とヘラヘラ笑う。


 人の気も知らないで。コイツ…、片眉をつり上げ時文は扇で宗昌の頭を加減なしに叩いてやった。


 すると宗昌は尻餅をついた。これには時文の方が驚く。
 加減なしに叩きはしたが尻餅をつくような強さではなかった筈だ。宗昌は「酷いじゃないか」と額を擦りながら、大きく咳き込む。
 
「時文。最近、叩く力が強いぞ……地が揺れているようだ」
「お前の体が弱っているから強く感じるんじゃないか?宗昌、自分の体ともっと向き合え」
「向き合った結論が“大丈夫”なんだけどなー」
「冷静な判断が出来ないくらいに花の香りにヤラれているなら、尚更巫女様に診てもらう。女房達の間で噂が立っているくらいなんだぞ。お前の体」

 噂が立っているのは花を執拗なまでに愛でる行為なのだが、敢えて口に出さなかった。
 「具合の悪くなっていく親友を見る、俺の気持ちにもなってみろ」時文の言葉に宗昌は口を噤む。繰り返し口にしていた“大丈夫”という単語が飛んでこない。

 親友を心配させたことに負い目を感じ、少々反省しているようだ。
 「ちゃんと巫女様に診てもらうよ」ボソボソ声だが時文にしっかりと伝えてきた。
 
 
「あ、でも少しだけ! 少しだけ! あそこの花をッ…う、嘘だって…時文」
  
 
 ニッコリ微笑みながら持っている扇を折ろうとしている仁王立ちの公達に、宗昌は冗談だと誤魔化し笑い。
 これ以上駄々を捏ねれば今度は加減なしに蹴りが飛んでくるかもしれない。今の自分とって時文の蹴りは馬に蹴られるようなものだ。
 素直に立ち上がり砂を払い「体優先。体優先。体大事」と、速足で歩き出す。

 時文は笑みを浮かべたまま宗昌に向かって扇を投げつける。扇は綺麗な弧を描きながら宗昌の頭部に直撃したのだった。





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あきゅろす。
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