001 酒に酔った上司の佐伯さんは手に負えない。 普段はおっとりとした社内でも愛される性格のクセに、アルコールが大量に体内に入ると性格が豹変する。 酒乱と呼ぶべきなのだろうか。 とにかく手が負えない。暴れだしたりする危険性はないけれど人の話を全く聞かない危険性が出てくる。人の話を聞かないことに、どのような危険性があるのかといえば。 例えばそう、 「佐伯さん。もう控えましょう。飲み過ぎです。明日も朝から会議があるんですよ」 「夜はこれからだから」 これだ。 人が折角、飲み過ぎだと注意しても聞く耳を持たないままアルコールを過剰に摂取していく。 過剰摂取は身体に毒、と訴えるその前に、誰がこの酔っ払いの面倒を看ると思っているのだろうかという思いの方が勝る。 私は大きな溜息をついた。 佐伯さんに呼び止められた時、かなり嫌な予感はしていた。 案の定、予感的中。 佐伯さんに「飲みに行きましょう」と誘われた。 正直、佐伯さんとは飲みに行きたくなかった。 普段の佐伯さんならば、私自身付き合いも上手くいく。 でも酒に酔った佐伯さんは上手く付き合えないどころの話ではない。半強制的に朝まで付き合わされる。断れば済む話だけど、私は誘いを上手に断る術を知らない。 愛想笑いを貼り付かせ、誘い流されるがまま、佐伯さんと居酒屋に来て飲んでいる。 明日も朝から仕事だというのに、酔っ払い上司の世話をする羽目になる遣る瀬無さ。 多量にアルコールを摂取していく上司に、内心ハラハラして自分は全く飲めない酔えないこの虚しさ。 最後に出るのは溜息だ。 佐伯さんに気付かれないよう、私は静かに溜息をつく。 酒に酔った佐伯さんの口から出るのは専ら仕事関係の愚痴。 社内で愛される性格の持ち主でも、仕事に対するストレスは尋常じゃないようだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |