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「美術品は何も語らない。しかし、見ているだけで何かを伝えようとしているものです。そして、どう受け取るかは私達次第」
「はぁ。そうなんですか。でも俺、そういうのホント分からないんで。芸術には縁がないというか。画家で知ってるも指で数えられるぐらい。ピカソとかゴッホとかモネとか。ほんっと有名な人しか知らないですし」


「ふふっ、知らなくても良いと思います。大切なのはこうやって作品と向き合うことですから」


 じいさんが可笑しそうに笑う。
 やっぱ苦手なタイプ。このじいさん。
 俺が横目でじいさんを見ていると、じいさんが視線を合わせてきた。

「貴方は絵と向き合う時、どんな感情を抱いて絵と向き合っていますか」
「……どうって、綺麗な絵だなとか。ワケ分からない絵だなとか。そんな気持ちでしょうかね」

「なるほど。では、考え方を変えてみましょうか」
「考え方を、ですか」

「ひとりの人間と向かい合う気持ちで作品を見てみて下さい。美術品と向かい合う時、そんな気持ちで向かい合ってみると面白いですよ」


「何だそりゃ」


 思わずタメ口を利いてしまった。
 仕方が無いだろ、じいさん、変なこと言うんだし。もしかしてこのじいさん、変人か?メチャクチャな変人か?俺は変人に絡まれているのか。


 嗚呼、くそっ、早く克志戻って来いよ。


 険しい顔をする俺の表情なんて気にせず、じいさんが話を続ける。


「私はですね。作品と向かい合っていると、ひとりの人の人生を覗き込むような感じがするのですよ。作品は生きています。ある意味、作品は作り手の人生の生き写しですからね」
「生き写し……ですか」
「ふふっ、まあ、生きている人間は全て芸術ですけどね」
「はあ?人間が芸術?」
 
 素っ頓狂な声を出す俺。
 少しばかり声がデカかったようだ。周りの視線が俺とじいさんに向けられた。
 俺は周りの目を気にしながら、声を窄めて聞き返す。


「どういうことですか。芸術って」


 じいさんは目を細めてえくぼを作りながら語った。





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