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003


 
 鼻を鳴らして彼の顔から視線を逸らす。見つめていたら危ない。理性の他に何かが崩れてしまいそうだ。無理してまでも、彼と一線引いて、『Love is blind』の魔法に堪えなければ、理性はあっという間に崩れ壊れる。
 もし、崩れ落ちた理性の破片を集めることにでもなったら。

 残る感情は虚しさだ。

 手中に収まるまで小さくなった食べかけのあんぱんを、食べてしまう為に口の中に全て入れ込む。「スゲー食い方」なんて驚かれても、構わない。
 甘めの餡を噛み締めながら、あたしはぶつかる感情と葛藤していた。


 勝つのは勿論理性。

 勝ってもらわなければ、こちらが困るのだ。


 でなければ、今までの苦労は水の泡。


 隣に座る彼は、あたしに視線を向けながら、あんぱんを口に入れている。
 感じる視線を振り払って、真っ直ぐ前を見据える。

 あたしの視界に入るには、屋上に通じる出入り口と、屋上を囲っているフェンス。
 小さなビルと蒼々と広がる空。見飽きる風景だ。


 口の中に微かに残るあんぱんを飲み込んで、見飽きる風景にウンザリしていると彼が話し掛けてきた。


 何処か不満を含む声だった。
 
「お前さ。俺と付き合うの嫌なのか。だったら、ハッキリ言って欲しいっつーか」
「なんで」
「俺を避けるような仕草ばっかりだから」
「そんなことないけど」
「自覚ないなら重症です」

 避けるようなことはしていない。
 ただ距離を置いているだけだ。思ったことを伝えれば、彼は呆れて腑抜けた声を上げる。

 
 何故に、距離を置く? という疑問の声に、あたしは直ぐに答えられなかった。


 好きだから距離を置くとしか云い様がない。



 しかし、それを伝えて、彼はどう思う。



 どうして人間の感情は、こうもフクザツに出来ているのだろうか。もどかしい自分に焦燥を感じる。
 これもすべて『Love is blind』の魔法のせいだ。悩んだ挙句、あたしは彼に言う。





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