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011


    

 一連の動作を恍惚に見つめる私がいた。

 
 至近距離で他愛もない動作を、飽きもせず見つめ続けられる自分がいて驚くけれど、何故か目が放せなかった。飽きるどころか、一つひとつの動作を目に焼き付けておこうとする私がいる。
 向こうが視線に気付いた素振りを見せると、ササッと視線を逸らしてオレンジジュースの入ったグラスに手を伸ばす。殆ど中身の入っていないオレンジジュースをストローで吸って誤魔化しごまかし。向かい側から丸帯びた笑声が聞こえたけれど、主は分かっていたから視線を向けることは無かった。
 
 代わりに目は自然と隣に流れる。
 
 携帯を仕舞った彼は、「なんか食べたいかも」小腹が減ったとメニューを開いていた。ガッツリ食べると夕飯食えなくなるし、デザートにしようかな、独り言を漏らすケイさんに何か声を掛けたかったけれど、「チョコケーキがいい」モダモダしている間に弥生ちゃんに先制されてしまう。
 「なんでチョコケーキ限定だよ」ケイさんの疑問に、「私が食べたいから」半分頂戴ね、彼女は悪戯っぽくはにかんだ。
 

「ちょっとちょっと弥生さん。ポクが食べるものを、横取りするつもり?」

「いいじゃない、ケチな男はモテないよ。ケイ」

「ケチであろうとケチでなかろうと、俺はモテたことないんですけどー? どーせ俺にはモテの“モ”もないよ。ってことで、だっめー」

「ひっどー! じゃあいいもん。ハジメ、私にチョコケーキね! ハジメはケチじゃないから私に半分恵んでくれるよね?」
 

 誰彼隔たりなく、しかも場を盛り上げる弥生ちゃんの空気に私は何故か息苦しさを覚えた。
 なんだろう…、弥生ちゃんは皆を楽しませるために場を盛り上げよう盛り上げようとしているだけなのだけれど、それが妙に息苦しい。―…あ、そっか。皆を和ませて笑わせているから、すっごく苦しい気分になるんだ。
 
 だってこういうタイプって好かれやすいし、私にはない持ち前の明るさとノリがあるから…、隣を見やればクスクスと笑ってるケイさんの姿。弥生ちゃんの悪ノリに便乗して会話に加担している。ケイさんって明るくてお喋りな子、好きそう。
 弥生ちゃんとかモロそのタイプだから…、私、弥生ちゃんに羨望を通り越して妬ましさを抱いているのかも。分かってる、弥生ちゃんにその気なんてないってことは。でも、ケイさんは…、結構その気だったりして。嗚呼もう醜い、僻む自分!
 
 軽く溜息をついて、私はダンマリとその場の空気に居座った。

 話題を振られたら愛想笑いで話を流しはするけれど、弥生ちゃんのように場を盛り上げるようなことはできず。モヤモヤっとした気持ちだけが募った。折角アドレスを交換することに成功したのに、些細な事で気分を霧散させちゃった。喜色が消えちゃった。私って結構我が儘なのかも。
 楽しい時間の中に苦い苦い気持ちを味わう羽目になって、私は心中で何度も溜息。結局アドレスのこと以外は個別に話が出来ず、ケイさんにお弁当の話題…、振れなった。
 
 
  
  
 
「―――…こころ、なんかあったの? そんなブサイクマスコット作ってからに」
  
 
 ファミレスで時間を過ごした夜のこと。
 居間で手芸に没頭していた私はばあばに指摘されて、作りかけのマスコットに目を落とす。
 
 手中にはウサギであろうマスコットがいるのだけれど、目の位置が見事に離れて残念ブサイク顔になっていた。
 「わわっ」目の部分をやり直すために、急いで糸切りバサミで糸を切る。普段だったらこんなヘマしないのに、ぼんやり手芸をしていたせいでウサギの顔が…、今度は気を付けよう。
 
 パチン、パチン、糸を切っているとばあばから再度同じ質問をされた。
 心配性のばあばは、私が少しでも表情に陰りを見せると何かあったのかとやんわり気遣いを見せてくれる。小中時代の私は毎日のように家で泣いていたから…、学校で何かあったんじゃないかって心配を寄せてくれるんだ。
 「何でもないよ」ちょっとボーっとしていただけ、私の回答に、「学校は楽しい?」ばあばはまだ心配の色を見せてくれる。うん、私は即答した。
 



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あきゅろす。
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