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006


   

 質問に即答してくれたのは弥生ちゃん。


 ゲームセンターが異様に暑く感じたから、飲み物を買って外で飲んでいたそうな。隣で肩を並べるケイさんは付き添い。弥生ちゃんから誘われて外で一緒に駄弁っていたみたい。片手にはコーラが入ってあるであろう缶が。
 簡略すると暑かったから外に出て飲み物を飲みながら駄弁っていた、たったそれだけのことなのに酷く狼狽している私がいる。勿論表に出すことは無いけど、なんだかモヤモヤ。どうしてこんなにも動揺してるんだろう、私。

 気持ち悪い胸の疼きにこっそり眉根を寄せていると、「んじゃ俺は中に入るな」ケイさんが席を外すと発言。
 ケイさん、多分女子同士の方が話し易いって気遣ってくれたんだと思う。「ごゆっくり」手をヒラヒラ振って、缶を片手にゲームセンターの自動扉を潜ってしまおうとする。

 「あ、」私は思わず声を漏らした。ケイさんに用事があったのに、このままじゃあ私、何も聞けずに終わってしまう。
 「ん?」私の声を聞き取ったのか、「どうした?」立ち止まって視線を投げてくれる彼。慌てて私は何でもないと愛想笑いを零した。


 ううっ、私のヘタレ。

 気さくにお弁当のおかずの話を出せばいいのにっ…、ケイさんの好みだって分かるかもしれないのに。会話だって、できるかもしれないのに。
 

 自己嫌悪に陥っていると、放物線を描くように私の頭上を缶が通り過ぎた。その缶はケイさんに向かって行き、そのまま彼がキャッチ。「捨てといて」缶を投げた犯人の弥生ちゃんがおどけ口調でケイさんに雑用を押し付ける。
 「それくらい自分でしてくれよ」俺はパシリですか、そーですか、ブツクサ文句を垂れつつ、二つ返事。今度こそ自動扉を潜ってしまう。
 
 彼の背を見送ることしか出来なかった私は自分でも信じられないくらい落胆。
 大きな溜息をついて、胸のモヤモヤと向き合った。ケイさんはどっち派だったんだろう。お肉派? 魚派? それとも野菜派? ……あ、携帯のメアドもっ、聞きそびれた。おかずを聞くと並行してメアドも聞く予定だったのに。決意表明だってしたのに…っ、駄目だ、私ってほんっと駄目ダメダメだ。
 
 うじうじ心中で自分を罵っていると、「コーコーロ」弥生ちゃんに声を掛けられて、ドッキリ。

 急いで振り返る。
 

「あ、えっと…な、何かな?」


 そしたら弥生ちゃん、「何かな? じゃないでしょー?」含みある満面の笑顔を向けてきた。次いで、「追い駆けなくていいの?」実はケイに用事があったんじゃないの、と羞恥心を煽られる質問を飛ばされてしまった。
 咄嗟にチガウチガウと首を横に振ってみるけど、弥生ちゃんにニッコーと笑顔で肯定するよう脅されてしまい、私はオロオロのモジモジ。「大した用事じゃ…」手遊びをしつつ、視線を泳がせて答を返した。
 
「その…、私…お弁当調査を…していて…、おかずのことを聞こうと…」

「ケイにお弁当作るの?」

 途端に私は動揺を表に出してしまう。


「ち、違いますっ、シ、シズさんにッ! …け、け、ケイさんには、その、あの、どんなおかずが…好みかと…質問を。男の子…皆に…質問してるんで」


 残りはケイさんだけだったのに、聞きそびれちゃった。
 別に彼の意見を聞かなくてもいいんだけどね。大半の人がお肉派って答えてくれたし、ケイさんがどのおかず派を答えようとも結果は変わらない。きっと。
 分かり切っている、そして割り切っていい筈なのに心の落胆はとどまることを知らない。寧ろ、「どんなおかずが好きですか?」と、彼に聞けなかった現実が私を落ち込ませる。
 
 おかずの話題に則(のっと)ってメアドも聞く予定だったのになぁ。
 知り合って時間が経てば経つほど、メアドを聞くきっかけが掴み難くなる。ケイさんのメアド、知りたいなぁ。皆のメアド知ってるのに、ケイさんだけ知らないなんて。折角お友達になれたんだから、メアドも知っておきたい。こうやってお友達になれたんだから。
 
 うんぬん思考を回していると、「ふーん」意味深に鼻を鳴らす弥生ちゃんの姿が目前に広がっていた。
 彼女はマジマジと狼狽える私を観察した後、持ち前の可愛い笑顔でニッコリと口を開く。形の良い唇がとある台詞を紡いだ時、私の思考は完全にストップ、硬直してしまった。






「ココロ、もしかしてケイに恋してる?」
 
 




 私がケイさんに―…そんなこと、そんなこと。

  
 ―…本当は薄々とは気付いていた、自分の気持ち。 
 
 最近ずっとケイさんのことしか頭になくて、空いた時間ができれば彼のことを考えていて、だけどそれは憧れと親近感ゆえに想ってしまう気持ちなのだと思い込んでいて。だってそれまで、ちゃんと同異性の友達ができなかった私だから…、一番タイプ的に似ている彼のことを想ってしまうのは憧れの一種だと思っていた。思いたかった。思い込みたかった。
 
 薄っすらと分かってはいたけれど、目でも彼を追ってしまう自分に気付いてしまってはいたけれど、違うのだと気持ちを否定していた。
 他人に指摘されて、改めて私は自分の気持ちと向き合わざるを得なくなる。
 

 私はケイさんに恋してる、のかな。
 だからこんなにケイさんばかり目で追ってしまう、のかな。




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