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005


  

「なにせ、女の手作り弁当をもらえるんだ。シズも、もしかしたらあーんなこーんなそーんな妄想で、あらら、脳内は春になってたり…。ま、男ならそれくれぇの妄想すると思うぜ。女から弁当作ってもらえるって滅多にないし。な、モト」
 
「はい、ヨウさん! 男を語るヨウさんもイカしてます! ヨウさんは超男です!」

「……。いや、そこじゃねえから」
 
 
 呆れ果てているヨウさんの傍で尊敬の眼を作るモトさん。更にその傍でうんぬんと悩む私。

 シズさんに限ってそんなこと…、だってシズさんの何でもライクベストランキングTOP3の上位二つは『睡眠・食事』だし。あんまり女の子の話題、シズさんの口から聞いたこと無いし。というか、まず地味女に興味が出てくるのかって聞かれたら、ううっ、それはNOだよね。
 ……だよね…、所詮私、根暗でウジウジオロロな女だもん。どーせチーム内の男子からは“女”って見られない、いつまでも良いお友達でいましょうタイプだよね。弥生ちゃんや響子さんの方が断然女だし。
 分かってはいるんだけど、なんかちょっと悔しかったり。……努力しない私が悪かったりするんだろうけど。

 ヨウさんとモトさんの意見を収集した私は、次にワタルさんとハジメさんの元へ。
 二階で格闘ゲームをしていた二人は丁度対戦を終えて一服しているところだった。ぶすくれ顔を作っているワタルさんと、失笑しているハジメさん。どっちが勝利したのか一目瞭然。バーチャル対戦ではハジメさんの方が上手(うわて)なのかな?
 私は二人にも同じ質問をぶつけることにした。ワタルさんは即答で「肉!」、ハジメさんは少し思案して「魚かな?」、二つに意見が割れた。

 この意見から、私は喧嘩を好んでする組はお肉、おとなしめ組は魚なのかもしれないって憶測を立てた。
 ハジメさんが魚って答えても私、驚きも何もしなかったし…、取り敢えず今は3:1でお肉が圧勝している。残りはケイさんだけだ。多分、ケイさんがどうに転がってもお肉になりそうだけど、一応聞いてみないと。あ、聞いてみないといけないといえば…メールアドレスも聞かないと。


 それにしてもケイさん、何処に行っちゃったんだろ?
 

 ゲームセンターをあらかた回ったんだけど姿が見えない。
 そういえば弥生ちゃんも姿がないなぁ。響子さんは化粧室で化粧直し中だし。二人とも何処に…。
 BGMの煩いゲームセンターをグルグル徘徊、お目当ての人物を捜す。と、ゲームセンターの出入り口自動扉向こうにケイさんの姿を発見した。ケイさん、ゲームセンターの外で缶ジュースを飲んでるみたい。見つけた、少しだけ鳴る鼓動を抑えて早足。自動扉を潜った。
 
 出た途端、ふわっと肺に入ってくる外の冷たい空気。鼓膜を振動する自動車の走り去る音に、街の雑音。「あ、」漏れる私の声音。全部がいっぺんに感覚神経を刺激した。
 
 ゲームセンターの外でケイさん、そして弥生ちゃんが缶ジュースを飲んでいた。
 それだけの光景なのに何となく、息が苦しいような、寂しいような。笑声を漏らしている二人は、建物の壁に背中を預けて和気藹々と談笑している。そこだけ切り取ったように明るくキラキラ輝いている世界に見えたのは、私だけ?
 

「で、結局、俺はヨウにタコ沢のことを任せたってわけだ。なーんであいつ、俺にまで喧嘩振ってくるんだろ。いや原因は分かってるけど、でも不可抗力だと思わないか? なあ?」

「ケイおつー」

「うっわっ! その言い方、チョー他人事!」

「だって他人事だもーん」

 
 ケラケラ笑う弥生ちゃんに、「ひっでぇ」ケイさんは苦笑い。
 すっごく楽しそうな世界に見えるんだけど…、これは入ってもいいのかな。いけない、よね。邪魔しちゃいけないというか、何というか。ケイさん、ノリノリで弥生ちゃんと会話してるもん。笑いが絶えない。
 
 あんなに捜していた人を前に、私は陰で声を掛けようか掛けまいかオドオドオロオロ。
 今、二人の間に入れば確実に私、KYだよね。お邪魔虫になっちゃうだろうし、その、あんまり悪く思われたくはな「あっれー? ココロじゃんか」
 
 挙動不審気味になっていた私に声を掛けてきたのは、バッドタイミング…ケイさんでした。
 オドオドオロオロしている私を見掛けたケイさんは、「何かあった?」ちょっと眉間に皺を寄せた。

 寧ろ、何かあっているのはこの状況なんですけど。一方的に私の置かれている状況下が悪いんですけど。

 何もないとかぶりを振ってしどろもどろなる私だったけど、弥生ちゃんが「おいでよ」手招きしてきてくれたから、妙な空気が打破された。

 おずおずと二人に歩み寄り、「此処で何してるんですか?」平然を装って質問。内心、妙に動揺している私がいるけど敢えて無視した。




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あきゅろす。
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