003
こうなったらもう、有り難く頂くしかないよね。
羞恥心を抱きながら、私は器を受け取り、お弁当箱を彼に差し出した。……こういう食べ合いに嫌悪感を持つ人もいるけど、私、基本的に気にしない。うん、シズさんとはお友達だもの。
「…煮物」シズさんが物欲しそうに大根の煮物を視界に入れてるものだから、私はそれもどうぞ、と彼におかずを一品恵んであげることにした。
すると嬉しそうにシズさん、大根の煮物を手で抓んで口に放り込む。「ウマイ」子供のように純粋に、そして幸せそうに綻ぶシズさんを見てると、微笑ましい気持ちになってくる。母性本能が擽られるってヤツかな。
「ずっと…、コンビニ弁とかだから…、こういう料理、久しい。煮物、もっと食べたい」
ポツリと零すシズさんの一台詞。
響子さんから聞いた話、シズさんの家庭はとても複雑なんだって。あんまり両親の愛情を受けていないとかなんとか。詳しいことは聞けてないけど、しょっちゅう外泊を繰り返しているんだって。それはグループ内にいるヨウさんも同じ。家庭がとてもとても複雑、だとか。
私は両親を亡くしている身の上、両親がいる家庭が羨ましかったりするのだけれど、両親がいたらいたで大変なんだなぁ。
「じゃあ今度、シズさんにお弁当作ってきましょうか? 煮物料理、大得意なんですよ」
途端にシズさんの目が爛々輝いた。
「真の友達」ワケの分からないことを言って、私の頭を撫でてきてくれる。……シズさんって基本的に食べ物でお友達になれそう。うん、食べ物で釣られそうなタイプ。しっかりしているんだけど、ちょっとこういう面を見ていると憂慮を抱いたり抱かなかったり。
約束だと笑顔を作るシズさんにコックリと頷いてみせる。やっぱりこういう子供っぽい笑顔を見ているシズさんを見ていると、微笑ましくなる。身長高いシズさんの頭を撫でたくなるというか。
「ったく、ココロに弁当作ってもらうとか幸せ者だな。シズは」
悪態を付く響子さんの表情は柔らかい。
シズさんの家庭事情を知っているが故に、あどけない綻びを微笑ましいと思ってるんだろうなぁ。私と響子さんは同じ気持ち。
「シズさんって煮物の他に何が好きなんですか? 煮物以外は勝手におかずをチョイスしても大丈夫です?」
「ああ…、なんでも好きだからな」
楽しみだと喜ぶシズさんに冷やし中華を返して、私もお弁当箱を返してもらって、各々元の食事を堪能する。頑張って煮物、シズさんに作らないとなぁ。早速今日にでも買出しに行こう。男の子だからお肉系がいいよね。煮物に…、肉団子とかいいよね。
―…男の子って皆お肉系が好きなのかな。うーん、他の男の子にも聞いてみようかな。参考として。
ヨウさんやワタルさんにメールしても、大丈夫…、だよね。
用事がある時は極力男の子にはメールしないから。ダメダメ、不良さん達でもお友達。怖がってちゃ何も出来ない!
(えーっとおかずのことで質問があります、みたいなメールでいいかな。一斉送信で…、あれ?)
アドレス帳に入っているグループの男の子達の名前をピックアップしてみる。
相牟田静馬、荒川庸一、嘉藤基樹、土倉肇、貫名渉…、シズさんはメールを省くとして、ひとり足りない。ケイさんのメールアドレス、私のアドレス帳に入ってない。
あ…そうか、ケイさんは最近グループに溶け込んだから、私のアドレス帳に入ってないんだ。他のアドレス達は私が初めて皆と対面した時、頑張ってアドレス登録をした記憶があるけど、ケイさんの時は一悶着、二悶着あったし。アドレスを聞く暇がなくて現在に至るんだ。
あんまり男の子とメールしないから、今の今まで気付かなかった。…どうしよう、聞くべきだよね。アドレス。
ケイさんは私のアドレスを知らなくたっていいかもしれないけど…、私としては平等にお友達のアドレスを入れておきたいし。折角お友達になったんだし。それに、うー…うー…。
「(でも聞いて、嫌な顔されたらどうしようっ。鬱陶しい女とか顔に出されたらッ…、た、立ち直れないぃいいい!)うううっ…ううっ…う゛ー!」
「……、ココロ…、何を唸ってるんだ? …悩み?」
「……、さあな。あいつのことだから、多分小さな悩みだとは思うんだが」
盛大な唸り声を上げて身悶えている私の様子を、訝しげに見ている不良達なんて視界にさえ入らなかった。
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