蕾が開花する
「髪染め? んにゃ、俺はしないよ。不良じゃないし」
―――…ケイさんは親近感を抱く人でした。
「なんで舎弟してるかって、そりゃヨウと約束しちまったし」
―――…ケイさんは強く不思議な人でした。
「不良は怖いけど、ヨウ達は怖くない。それって友達って思ってるからだよな」
―――…ケイさんは優しくて自分を持っている人でした。
「あ、でもヨウ達も怖い時あるけど。っ、ゲッ、ヨウ! な、なんでもないって!」
―――…ケイさんはおっちょこちょいで調子ノリと言われる愉快な人でした。
「ははっ、弥生ってチームのムードメーカーだよな」
―――…ケイさんは明るくてお喋りな子が大好きな人です。
分かってはいるのに、どうしても目が放せない人。見ているだけで、胸が熱く切なくなる男の子でした―――…。
◇ ◇ ◇
「で、あるからしてYはXと対等な関係を」
数Tの授業ほど眠くなる授業はないと思う。
今日の気候が比較的安定した過ごしやすい一日っていうのもあるし、数学という教科自体、私にとっては眠気を誘われる授業。ついつい欠伸が込み上げてくる。どうにか噛み殺しつつ、私は先生が書いていく数式をルーズリーフに写していく。今のところ説明が主だから名指しされる心配はない。一安心だよね。
それにしても面白くないなぁ、数学。全然頭に入ってこないし。
昔から算数が大の苦手だった私にとって、数学ほど苦しめられる教科は他にない。
典型的に私は文系脳だから…、うーん、チンプンカンプン。
ちょいちょい時計を気にしつつ、私は空いたスペースに落書きを始める。
この時間がつまらない故の現実逃避だ。
まずはウサギさんを描いて、隣にカメさんを描いて…、そうだ、童話『ウサギとカメ』のワンシーンでも描いてみようかな。
確か童話ではウサギさんはカメさんと競争をしようとして、途中居眠り。カメさんは一生懸命走って走って走って、途中で仲間が応援。仲間の一人が自転車でやって来てウサギさんを抜い―…、あれ、童話が童話じゃなくなってる。
ルーズリーフの隅っこに描いていた落書きに、私はムッとしかめっ面を作る。
シャープペンシルの頭を唇に押し当てながら、落書きと睨めっこ。応援にやって来たカメさんと競争していたカメさんが自転車に乗る。甲羅が邪魔なんじゃ…、というか二人乗りできるのかな、カメさん。いやいやいや、そうじゃなくって私、二人乗りっていう時点で意識しちゃってるから! 二人乗りイコール、とある舎兄弟しか出てこないから!
静かに溜息をついて、私は童話の落書きの隣に自転車を描いてみることにする。
タイヤが二つ、ボディがあって、サドルがついてて、ハンドルもつけて…っと、簡略的な絵だけど、自転車が完成。あの人は、これにいつも乗って活躍しているんだよね。
(凄いよなぁ。不良を乗せて喧嘩に参戦、だなんて)
純粋に尊敬してしまう。
不良の舎弟として毎日を過ごしているケイさんに。そんなケイさんを気付けば見ている私、これってやっぱり意識してるんだろうけど、恋なのかどうなのかよく分からない。どちらかといえばまだ、尊敬の念が強いと思うんだけど。
―…だけど、ちょいちょい意識する私がいるし。いちゃうし。
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