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愉快大好きの思いつき


 
 
「ねーえ。くじ引きポジションゲームしないっぴ?」


 この事件の発端はいつもの如く、楽しさと面白さを追求している愉快犯のワタルさんからの一言だった。
 
 たった一言。されど一言。
 その言葉で俺を含めた常識人はヤーな予感を抱いたことだろう。
 嗚呼、なんてこったい。この人は至らん思い付きをしちまったに違いない。マジかよ嘘だろ冗談だろ? この人の思い付きによって俺達は召されるかもしれません、アーメンナームアミダブツ。みたいな感情を抱いたことだろう……常識人は!

 だがしかーし!
 ワタルさんと同じ人種である輩にとってはナニ? 超面白そうなゲームでも思いついたのか! って顔をすることだろう!

 現に代表して我等がリーダーが退屈顔から一変して目を輝かせていた。
 本日の俺達はスーパー近くの倉庫裏でたむろしているんだけど、喧嘩もない穏やかな時間を過ごしてやや退屈していたんだ。ゲーセンのゲームにも飽きちゃっていたところだったし(やたら金は巻き上げられるし)、喧嘩の前兆もない。皆で平々凡々と時間を過ごすってかんじだったから、ワタルさんの言葉はまさに救世主ばりなものだった。誰よりも退屈していたヨウが愉快犯に対して大いに期待を寄せ、早く話してくれるよう催促する。

 ……俺はヤな予感しかしないんだけど。

 まずネーミングからして、な?
 ただのくじ引きゲームじゃないんだぜ? くじ引きにポジションが付いているんだぜ? なんかあるって思うだろ!

 「なんか思いついたのか?」煙草の先端を噛み潰しながら、ヨウがワタルさんに詰め寄る。
 ふふんと得意げな顔を作るワタルさんは、ジベタリングしていた腰を上げ、倉庫にいるチームメートを全員召集すると改めてくじ引きポジションゲームをしないかと同意を求めてきた。各々疑問符を浮かべる中、ワタルさんはすんげぇ楽しそうにルールを説明してくる。

「いーっつもさ。同じ面子で一緒にいると飽きるっしょ? マンネリ化を防止するために、僕ちんは思いつきました! 皆のポジションを入れ換えてしまおうと!」

 お分かりだっぴ?
 ほっらぁ、例えば僕ちゃんは今日も明日もあさっても僕ちゃんじゃん?
 そりゃあ僕ちん自分のことダーイスキなわけだけど、たまには僕ちゃんの分身がいてもいいと思うわけんだま。今、この瞬間にシズちゃーんが僕ちゃーんになりきってくれたらすっごく面白と思うんだぴょん。SFチックに中身が入れ替わってくれるなら話は別だけど、たまには違う皆を見たいぽーん。
 
 皆だって自分が普段、どういう風に見られているか知りたいっしょ?


「ということで! くじ引きで皆のポジションを入れ替えちゃいましょうゲームをしよーん! 僕ちん、くじ作ってきたから! あ、ちなみに例えばリーダーのポジションを引いたらヨウちゃんの性格とリーダーのポジションはセットに演じてもらいまーすりりんぐ!」


 ででーんとノートの切れっ端を俺達に掲げて見せるワタルさんに、ヨウは面白そうじゃんかと指を鳴らした。
 ヨウが賛同するならモトも賛同するわけで。モトの親友さまのキヨタもそりゃあ興味を示したわけで。響子さんもたまにはこんな馬鹿もいいじゃんと笑い、弥生がしようしようとはしゃいでいる。なんてこったい、わりと乗り気な面子が揃っちまったよ。

 え、俺?

 勿論圭太はー…やりたくねぇよ!
 ワタルさんの思いつきゲームで美味しい思いなんかしたことないもん! 寧ろ、マッズイ思いばっかだよ! おぇええ、リバースしそう!




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あきゅろす。
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