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019




「ヨウ。弥生やタコ沢から情報が入っている。お前が夜中に不良と喧嘩しているって、その情報が」


 眉根をつり上げてくるシズの剣幕に俺は知らん顔をしつつ、窓辺で喫煙。
 さすがは俺のチームの情報網達。いい仕事してんな。もう情報を仕入れてきやがった。感心かんしん。
 
 俺の態度を肯定と受け取ったシズはそれはそれは大きな憤りを見せやがった。
 「お前って奴は…」何をしているんだ、チームに黙って個人で喧嘩か? しかも連日連夜? お前は不良狩りで尤もターゲットにされている不良の一人なんだぞ。とかなんとか詰問してくる我等が副リーダー。
 「それって俺のそっくりさんじゃね?」一応おどけてみたんだが、「だったらその怪我はなんだ?」とシズに睨まれた。
 
「これは親父と喧嘩した時の勲章だって。俺は家にいたぞ」
 
「タコ沢と…、弥生の情報は完璧だ。誤魔化されない」


「だったら俺のドッペルゲンガーだなそりゃッ、イッテー! ただのジョークだろうが、シズ! なんで殴るんだよ!」
 

 「お前が阿呆だからだ!」珍しく声を荒げてくる副リーダー、心配ゆえの怒りだってことは分かっている。
 俺は観念して、「わーるかったって」軽い運動していただけだよ、と白旗を振る。うそつけ、お前のことだから何か無茶をしようとしていたんだろ? そうだろ? シズの詰問に便乗したのは響子だ。二人揃って何していただの、何考えているだの、何阿呆しているだの、ナニナニのオンパレードだ。
 最初こそ受け答えしていた俺だが、段々面倒になって窓辺で喫煙再開。ついにはうざったくなって、「次から気を付けりゃいいんだろ?」と投げやりに返した。

 それが響子の怒りを買ったのか、「どーしてそういう態度なんだ」あんたはリーダーだぞ、と叱られる。
 
 うるせぇな、リーダーだろうがこればっかりは譲れないんだよ。
 差し込む夕陽を見つめ、俺は背後でオカンのように文句を並べてくる響子にそっぽ向いた。傍観客のタコ沢が「よくやるぜ」と呆れ、ワタルが眠そうにごめんなさいすれば終わるはなしじゃなーい? と助言。

 喧嘩に発展しそうな空気におろおろとしていたのはココロ。
 「大丈夫っスよ」どーせヨウさんが負けますから、キヨタが彼女を慰めているけど、内容が気に食わない。俺が誰に負けるって? 響子に負けるって? ……響子は怖ぇしな。勝てる気はしねぇ。言っていることはご尤も! でもやっぱ気に食わないぞ。キヨタ。
 
 お小言がヒートアップしていく中、俺は夕焼けをただひたすらに見つめていた。
 今日は学校、サボッちまったけど、ケイはまだ学校に来てないだろうな。チームメートが気付いているかどうかは分からないけど、俺は気付いている。ケイが戻って来れず、俺達を避けてしまっていることを。馬鹿だな、俺達はてめぇの評価を変えねぇよ。非力? んなのとっくに知ってる。知った上で俺はてめぇを舎弟にしているんだから。
 

「ヨウ、聞いてるのか?!」

「うっせぇな。テメェは俺のおかんか!」
 

 まーだお小言を垂れてくる響子にツッコんで俺は外に視線を戻す。

 都会に染められた風を頬で受け止め、俺は何気なく視線を下ろした。時が止まった。
 そこには制服姿のケイの姿。アパートを見上げている姿に呼吸を忘れてしまった。久々に見るケイはやたら包帯やガーゼが目立つ。痛々しい痣も見えるし、あいつ自身、俺と視線がかち合って驚きかえっている様子。


 けど、んなの、関係ねぇ。

 
 俺は弾かれたように窓辺から去った。吸いかけの煙草をクッキー缶に投げ放り、仁王立ちしている響子の脇をすり抜けた。「おいヨウ!」何処に行くんだとシズから怒鳴られた。知ったこっちゃねえ。ローファーを突っかけて俺は外へと飛び出した。
 
 ちゃんとローファーを履いていなかったせいか、階段ですっ転びそうになる。拍子に脱げちまったローファー。盛大に舌打ちを鳴らし、俺はローファーを履きなおした。今度はかかとまでしっかり履いて、アパートの前の舗道へ。
 けど既にケイの姿はそこにはなかった。逃げられたんだ。ああくそっ、ローファーのせいで!
 「ヨウ!」戻って来い、響子が窓から怒鳴っているけど構う余裕は無い。左右を見渡してケイの姿を確認する。左前方、百メートル先の曲がり角を左折している舎弟を見つけた。
 



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