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「だってよ? 蓮と俺は超仲が良かったんだぜ? なのに俺より榊原に行かれちまったんだ。そりゃあ嘆いたも嘆いた。落ち込んだも落ち込んだ。怒ったも怒った。けど蓮の気持ちが見えてからは、どうすりゃ戻ってきてくれるかなぁーって、そればっか考えていた。おめぇと同じだ」

「なんでそう思うんだよ」

「顔に出やすいんだよ、おめぇは。田山が戻って来易い環境をどう作りゃいいかなぁって面してるぜ?」


 気持ちは分からないでもないけどな。

 「愛されてるねぇ。舎弟も」俺の方が舎弟達を愛してるけどな、揶揄してくる浅倉は静かに肩を竦めて難しいもんだと一言。
 一度決壊した居場所を作ってやることは簡単なことじゃない。現に今だって初代舎弟は時折ここにいていいのかと悩む素振りを見せる。タイプが違う俺達なら尚更難しいんじゃないかと浅倉は紫煙を吐いた。日常を壊すのは簡単だが、日常を取り戻すのは至難の業。これから苦労するぞ、と浅倉は一笑してくる。
 俺は大丈夫だと断言した。ケイは戻ってくる、戻ってきてくれる。あいつ自身がそう言ったんだ。なら俺はそれを信じるまで。時間が掛かってもいい、戻ってきてくれたらと思う。

「俺は今更、舎弟を変えるつもりもねぇし舎兄弟を白紙にするつもりもねぇ。あいつと俺で舎兄弟だって信じてるんだ。取り戻すさ、手前の日常を」

 そして俺等を舐め腐った輩にはそれなりの応酬をしてやる。必ず。

「おめぇが言うと様になるな。やっぱイケメンだからか? ……ま、無理しねぇようにな。俺も人のことを言えたギリじゃねえが、気持ちが先走ると見境をなくしちまうもんだ。そういう時、セーブが利かないんだよなぁ。おりゃあ、涼や桔平っていうストッパーがいたから大丈夫だが」
 
 「おめぇは?」視線を向けられるが、俺は生返事で適当にあしらった。答えられるだけの気持ちが集まらなかったんだ。
 苦笑いを零す浅倉は「杞憂かもしれねぇけどな」と、俺に留めていた視線を玄関に向けている。そこにはモトがいたようだが、俺は外の景色ばかり眺めて思案をめぐらせていた。どうすればより効率的に情報が集まるか。どうすれば早く仇討ちできるか。どうすれば早くケイが帰ってきてくれるか。そればかり、考えていた。
 
 
 それが後日、浅倉のいうストッパー役をモトが買って出てくれたために、俺はなんとか先走る気持ちを自制できるようになった。
 『B.B.B』なんざケッタイで中二病くせぇ名前をつけた札付きの不良チームから勝利を得たのも、それから間もなくのこと。勝利を得たのに心が晴れなかったのは、やっぱ仲間が傷つけられてしまった事実があるからだろう。 

 けどようやく手に入った手土産に俺自身はちと安心していたんだ。
 これでちゃんとケイに顔向けできる。サトミって奴を討ち取ってはねぇけど、ケイに暴力を振るっていた不良達を完膚無きところまで叩き潰せたんだ。少しならず満足はしていた。が、問題発生。
 何が問題かっていうと、折角の手土産を相手に手渡せなかったんだ。
 
 というのも、俺達がケイの家に赴く度におばちゃんが出て「ごめんなさいね」
 ケイ、よほど具合が悪かったのか全然俺達と会ってくれなかったんだ。俺達が行く度に寝てしまったとおばちゃんに言われてしまった。時に浩介から言われることも。その度にココロは心配し、キヨタは落ち込んだんだけど、俺自身はこう思っていた。ケイは俺達を避けている、てな。

 それが悲しくないかと聞かれりゃ、そりゃ悲しいに決まっている。
 けどケイの気持ちと性格を考えると避ける気持ちも分からんでもない。寧ろ俺なら迷惑掛けた申し訳なさと、暴力の恐怖から仲間を避けちまう。じゃあそんなケイに俺がしてやれることはなにか? ちとでも安心できるような環境を手前で作ることだ。

 里見上総等は知名度を欲している不良を利用していることが判明した。
 だったら利用される前に脅しておこう。片っ端からシメておけば、里見達への予防線も張れる。元はと言えば、ケイは俺伝いに知名度を上げちまった。
 んでもってケイは知名度争いに巻き込まれた。勿論里見達に利用されたってのもあるけど、知名度も一理噛んでいる。だったら俺のできることはそいつ等をシメ挙げることだ。これはチームの問題じゃなく、舎兄弟の問題。

 思い立ったが行動と思った俺は、その日からひとりで夜な夜な知名度に飢えた不良を相手取った。別に大したことじゃねえと思ってはいたんだが…、怪我したことも適当に流せると思ったんだが。





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