017
◇
「よっ。荒川はいるか?」
数日の間に、チームのことを心配して俺達の下に足労してきた輩がいた。
いつも俺達に手を貸してくれる浅倉チームだ。ケイが見つかった後の俺達の様子が気掛かりだったらしく、わざわざシズのアパートまで浅倉達が赴いた。全員じゃなく代表四人。俺達と特に馴染みのある面子が来てくれた。
浅倉は俺に用があるらしく、窓辺で喫煙している俺を見つけるや手招きしやがった。外に来いってか?
重たい腰を上げて浅倉と渡り廊下に出る。
そこで一緒に喫煙するわけだが、開口一番に浅倉に気遣われちまった。「おめぇ大丈夫か?」って。
元気びんびんだと返してみる。が、浅倉には通用しなかったようで、「びんびんは古くねぇか?」苦笑いされた。そりゃ悪かったな。俺は古い人間なんだよ。鼻を鳴らす俺に、「焦るよな」前触れもなしにそいつは同調してきた。
突っ返したいと思わないのは浅倉が俺と似た経験をしているせいだろう。
浅倉は言う。舎弟の存在ってでけぇよな、と。
「失って初めて気付く。なんざ、お馴染みの台詞だが本当にそうだとおりゃあ思う。舎兄弟には舎兄弟同士にしか分からないもんがあるぜ。これを少年漫画風に言えばキズナって奴だな。おぉおクセェな」
「テメェはクサイ台詞をほざくために来たのかよ」
「そのとおり!」ちとくれぇイケメンになりたくてな、ウィンクしてくる浅倉に俺は鼻を鳴らした。
てめぇじゃ無理だと一蹴してやると、「そりゃお前がイケメンだからだろうよ」嫌味かコラ、悪態をつかれたが心には響かなかった。俺自身の余裕のなさが垣間見えるな。舌に馴染んだマルボロを嗜む。どことなく塩辛くて苦々しい味が癖になる煙草が今の俺の精神安定剤なのかもしれない。
ふーっと紫煙を吐いていると、「少しは息抜きしろよ」おめぇのイケた面に皺が寄るぞ、浅倉が自分の眉間を親指でさした。
ほっとけ、ちょっとやそっとじゃ崩れねぇ面なんだよ。嫌味を吐き捨てると、「羨ましいこって」俺もイケメンに生まれたかったと浅倉。俺とは違うメーカーの煙草を嗜んでらっしゃる。
「田山の調子はどうだ?」
「肺炎になりかけてたしな。まだぶっ倒れてる」
「そうか。そりゃ心配だな。見舞いくれぇ行ってやれよ。寂しい思いするぜ? あの地味舎弟くんも」
「手土産ができたらな」
それに今のケイは俺達とは会わない、そんな気がする。
なんとなく分かるのは俺が舎兄だからだろう。今、ケイに会いに行ったってケイは俺達とは会わないし、俺も会わせる面がない。早いところ土産が欲しいところだ。そしたら少しはマシになると思うんだがな。なにぶん手土産の材料というべきものが集まらない現状だ。苛立ちばっか感じる。
「おめぇらしくねぇな」舌打ちをしている俺を盗み見た浅倉が肩を竦めた。「おめぇって」いつもへらへらしているイメージがあるから、そういう姿は新鮮だと浅倉に言われる。俺がいつへらへらしてるって? そりゃワタルだろ、ワタル。
「ほら、なんっつーかノリがいいじゃねえかよ。荒川って」
ああ。なるほどな。
そりゃ舎弟のせいだ。俺もあいつに会うまではそこまでノリの良い人間じゃなかった。ノリがいいのはあいつのせいで、今、ノリが悪いのもあいつのせいだ。常日頃から傍にいると感化されるものだよな。俺は絶大な影響を受けている。そりゃもう残念なくれぇにノリがいい。
「なあ浅倉」溶け消えていく紫煙を見つめ、俺は浅倉に聞いた。てめぇは舎弟がいなくなった時、どうしていた? と。
間髪容れず、浅倉は答えた。「蓮の気持ちが見えない時は」普通に落ち込んだし、嘆いたし、憤っていた、と。
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