016
「本当にしてくれるかな」俯き気味になる浩介は、なんか今の兄ちゃんはとても変なのだと声を窄めた。
変? どういう意味かと小学生に尋ねると、「お父さんにね」怪我のことについて何かあったのかって聞かれたの。そしたら兄ちゃん、怪我なんかしてないって言い張っちゃって…、浩介は当時のことを俺達に教えてくれた。
「お父さんってボケーッとしてるでしょ?」
「あー…、ちょっと不思議系入ってるよな。おじちゃん」
「だけどその時はすっごくキビキビしてて。お父さんは怪我した時のことを知りたかったみたいなんだ。
だから起きている時に兄ちゃんに聞いたの。何処で怪我したの? って。そしたら兄ちゃん、『怪我なんかしてない!』って突っぱねちゃって。誰がどう見ても怪我はしているのに、怪我なんてしてないばっかり。お父さんも困っちゃって。すっごく取り乱すしムキになるから聞けなくなっちゃったんだ」
僕、心配になってお部屋を覗いていたんだけど兄ちゃん、お父さんと言い合っちゃうし、何もなかったって言い張るし、ついには学校に行くとか頓狂なことを言い出しちゃうし。本気で着替えて学校に行こうとしたから、もう、僕もお父さんもびっくり。傍にいたお母さんもびっくり。
大慌てて止めたんだ。だって熱が高いのに、お医者さんにも自宅療養しろって言われているのに、それで学校に行こうとするなんて。
もしかして兄ちゃん、頭でも打って馬鹿になっちゃったんじゃないかな。僕、心配で心配で。
「その後、兄ちゃん、糸が切れたみたいに寝込んじゃって。兄ちゃん、なんか変だ。無理して元気になろうとしたり、寝込んじゃったり。本当におかしい。怪我のことは何も言わなかったし」
「そうか…、ンなことが」
「あとね。庸一兄ちゃん、もしかして兄ちゃんと喧嘩しちゃった? だったら許してあげて」
喧嘩?
俺は目を瞠る。俺はケイと喧嘩した覚えなんざ、これっぽっちもねぇんだが。めったなことじゃ喧嘩しねぇぞ俺等。マジ喧嘩したことがあるのは一年の五十嵐戦後ポッキリだと思うんだが。いやあれは俺の一方的な怒りをぶつけただけというか。のせられたというか。なんというか。
浩介は唇を尖らせ、「だって」兄ちゃん…、ずっと庸一兄ちゃんに謝っているから。それこそ熱に浮かされながらずっと、ごめん、ヨウごめんって。
―――…ヨウ、ごめん。
何故だろう、ケイの声が直接脳裏に届いた気がした。
だって安易に想像できちまうんだ。ケイがどんな顔で、どんな声で、どんな気持ちで俺に謝っているのか。……バカヤロウが。
俺は心配の念を抱く浩介に大丈夫だと伝え、許すも何もしていない。ケイは何もしていないと言葉を掛けると、ケイの弟と別れた。込み上げてくるのは急かす気持ちばかり。早く仇討ちしねぇと取り返しのつかないことになるような気がした。
「ちょ、待って下さいよヨウさん!」モトが駆け足で俺の後を追って来るけど、歩調は加速するばかりだった。
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