いつだって二人で
おばちゃんがケイを連れて帰って数日。
俺はチームメート共にサトミカズサって野郎や“不良狩り”を目論んでいる輩を炙り出すため、徹底的に周辺の不良情報を仕入れていた。どれもこれも仕えない情報で苛立ちは増すばかりだった。
一分一秒、俺は仇討ちしてやりてぇって思っているからだろう。
俺の不機嫌がチームを険悪にしていることも自覚していたが、気遣える余裕なんてこれっぽっちもなかった。俺も器用じゃねぇっつーの。あまりの不機嫌に副のシズをおおいに呆れさせたが、耳を傾けられなかった。
苛立たせるといえば、学校だ。
重傷を負ったケイが学校を休んじまうのはしゃーねぇことだが、どこから聞いたのかケイの欠席理由が忽ち教室内に広がっていた。誰だよ、ケイが喧嘩でヤラれたって噂を流した奴。真実っちゃ真実だが、幾らなんでも早すぎだろ。入院したってデマも流れていたもんだから苛々に苛々が募って苛々々々々。
どっからか田山がカッコつけて悪ぶった結果がこれだとかほざく野郎がいたから、俺はマージで喧嘩を吹っ掛けそうになったね。五木に止められなかったら俺は教室で喧嘩騒動を起こしていたに違いない。
元々気が長い方じゃねぇが今の俺の気の短さは16年間生きてきた人生の中でも最短だと思う。担任の前橋にケイの話題を吹っ掛けられただけでプッツンいきそうだった。抑えたけど。
ちなみになんで前橋が俺にケイの話題を振ってきたかっていうと、自宅療養している怪我人の様子を知りたいからそうな。
自宅訪問したらしいけど本人は会わなかったらしい。
というか体調不良で会うことができなかったらしい。常日頃から一緒にいる俺なら何か情報を持っていると考えたようだ。が、俺も自宅療養している本人には会っちゃねぇ。最後に会ったのは病院だ。
見舞いに行きたいけど、まだケイに会うわけにはいかなかった。見舞い品も何も揃えていないんだ。どうしても会えなかった。もしケイから会いたいって連絡があれば、すぐ行くつもりだけど……、多分ケイの性格上それはないと思った。
けど俺はケイの様子を一度だけ知る機会を得る。
それはとある日の放課後、モトと一緒に外を出歩いていた時のことだ。俺はあいつの弟・浩介と顔を合わせた。
浩介は習字に行く途中なのか、ちっせぇチャリに跨ってどこかに行くようだった。先にあいつを見つけたのは俺、だからあいつの名前を呼んで浩介を呼び止めた。チャリを止める浩介は振り返って、「あ。庸一兄ちゃん!」颯爽とチャリを方向転換。俺達の下にやって来てくれた。
「こんにちは。庸一兄ちゃんに、基樹兄ちゃん!」
一度だけたむろ場に来たことのある浩介はモトの顔もしっかり覚えているようだ。
お揃いでお散歩でもしているのかと能天気な質問を飛ばしてくる小学生に、モトは苦笑。そんなところだと相槌を打っていた。ふーんと鼻を鳴らす浩介に、「浩介は習字か?」俺は質問する。
そしたら浩介の奴、首を横に振っておつかいだと告げてきた。
「お母さんが兄ちゃんにゼリーを買ってきて欲しいって言ったから。うーん…、兄ちゃん、寝てばっかりでつまんないんだ。怪我してるのはしょーがないけど」
眉を下げる浩介。
ここ数日は起きることが殆どないんだと。わりとお兄ちゃんっ子の浩介にとっては寂しい日々なんだろう。「元気になったらまた遊んでくれるって」モトの励ましに、「あらやだぁごっこしてくれるかな?」と浩介。してくれると言いつつもモトは少しばかり固まって俺に視線を流してきた。
「あらやだぁごっこって分かります?」
「ケイお得意のノリだ。よくそれで遊んでやってるみてぇなんだ」
モトにはイマイチあらやだぁごっこが分からないみてぇだが、俺は実際目の当たりにしているからお得意のノリなのだと教えておくことにする。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!