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013




「圭太が元気になったら、また泊まりに来てね庸一くん。浩介も貴方が来てくれると嬉しいから」

「庸一兄ちゃん。兄ちゃんは僕が看てるから大丈夫だよ! こころ姉ちゃん、お見舞い来てあげてね。兄ちゃん喜ぶし!」
 

 「頼んだぞ浩介」微笑み掛けると、うんっと頷いて浩介は俺等に手を振ってきた。
 結局おばちゃんに何も言えず、寧ろおばちゃんと浩介から慰めの言葉を貰った俺は黙って舎弟を見送ってやることしかできなかった。浮かない面持ちを作るココロやグズッと鼻を啜るキヨタ、何も言わず俺と同じ表情をしているシズや響子の間に言葉はない。
 その空気のまま病院を後にした俺は仲間達と別れた。なにせ俺はケイとタクシーで此処まできた。二人乗りで来た仲間のバイクに三人乗りなんて命知らずなことはしないさ。


「ヨウさん…、俺っちが歩いて帰りましょうか?」


 後輩らしい気遣いだが、俺は遠慮した。歩いて帰りたかったから。
 いや歩くことでこの気持ちを発散したかった。行き場のない、この感情を。
 聡いシズが俺の心情を見抜いて、キヨタと一緒に帰ったらどうだと提案される。いらない節介だ、が、キヨタはうんっと頷いて俺と徒歩で帰る選択肢を取ってきやがった。
 「おいシズ…」相手を睨むと、「さっき十二分に単独行動を堪能しただろ?」それにお前は誰よりも狙われた不良…、これ以上の単独行為は自分が許さないと言い放った。
  

「キヨタと一緒なら…、安心だ。いいな…、途中でキヨタを振り切る真似をしたら…、自分の部屋に軟禁だからな」


 おいおい、そのジョークは今の俺達には笑えないぞ。

 分かったとばかりに頭部を掻くと俺はキヨタを呼んで一足先に出発した。
 本当は少しだけ街をぶらぶらっと歩くつもりだったんだが、キヨタがいるとやりにくい。計画が狂ったな。心中で舌を鳴らし、俺は片側三車線の道路を渡る。肩を並べてくるキヨタと無言で帰路を歩いていると、「ヨウさん」チビ助から声を掛けられた。視線だけ投げる。ジッとこっちを見上げてくる後輩の姿がそこにあった。
 まるで心意を見透かそうとするような強い眼光だ。それを鋭くするキヨタからそっと視線を逸らすと、「悔しいの」ヨウさんだけじゃないっすからね、と尖った言葉をぶつけてくる。まさに不意打ちだな。

「唐突になんだよ」

 憮然と返す俺に、「だって自分だけ悔しい」そういうツラしていたから、とキヨタが口を曲げたまま指摘してきた。


「確かにヨウさんはケイさんの舎兄ですけど、俺っちだってケイさんの舎弟っスよ。ココロさんはケイさんの彼女ですし、チームメートでもありますっス。皆が皆、悔しい思いをしていると思うっス。だから自分だけ仇を取ろうとか、そんなことは思わないで下さいね」
 

 べつにンなことは思っちゃねぇよ。自分だけとかはな。

 ただ胸を占めるのは自分を卑下していた舎弟の姿。
 短い時間だったが俺と会話を交わした舎弟の弱弱しい姿といったら…、仇を見舞い品にしねぇとケイは立ち直るどころじゃない。利用された自己嫌悪が日に日に増して、ついには姿を晦ましそうだ。随分と追い詰められていたからな。

 なのに大丈夫とか俺達には言いやがって。ぜってぇケイに元気になってもらえるような見舞いを送らないと。
 急かされる気持ちはどことなく焦燥感を味わうものだった。
 
 悶々と思考を巡らせていると、「俺っち」ケイさんを助けられなかった…、泣きそうな声が俺の鼓膜を振動する。頭から冷水をかぶったみてぇにちとだけ熱くなっていた気持ちが静まる。泣きはしていなかったが眉を下げてしょげ返っている子犬がそこにはいた。
 「とても悔しいっス」前を向いて歩いている後輩に、俺は間を置いて、「俺もだよ」同調を示してやる。




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あきゅろす。
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