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007


 

「何処に行くんだ。お前は……、サトミという男から狙われているんだぞ。勝手な行動は…」

「いっそのこと、来てくれた方がいい。だが、今は動かないだろ」


 俺の相棒を甚振って、今頃は満足しているだろうさ。

 苦言するヨウは大丈夫だと告げ、馬鹿なことはしないと早足で玄関に消える。急いで追い駆けるが既にヨウの姿は玄関にはなく。ローファーを足に引っ掛けて外に出ると、ヨウは階段を下っていた。

 「ヨウ!」せめて単独行動は控えろ! 裏の裏を掻かれるかもしれないだろ! 珍しく声音を張る自分に、段を下っていたヨウの足が止まる。
 「だったら」願ってもねぇことだ、振り返ったリーダーの表情はひどく冷たく薄ら笑いすら浮かべていた。はじめてみる表情に言葉が迷子になる。
 

「シズ。俺さ…、手前が許せねぇんだよ。また仲間を救えなかった、手前の非力さが。マジ」

「それは自分だって…、おなじだ」


「同じかもしれねぇが、ちとばかし違うんだ。違うんだよシズ。俺は前からケイの不安に気付いていた。そのことで相談にも乗ってやった。手腕のねぇケイは利用されることを恐れていたんだ。俺はあいつになんて言ったと思う? 大丈夫、なんか遭ってもぜってぇ乗り切れるって言ったんだよ」
 

 なのに結果的にケイはチームの動揺を誘う道具として使われた。
 サトミカズサって野郎がどこのどいつで何をしている野郎かは知らないし、今更どうでもいい個人情報なんざ知ろうとも思わない。ただ利用されるんじゃないかって恐れていたケイを見事に利用し、傷付け、暴行し、俺の動揺を誘った。ザマァねぇよ。

 こんなんじゃ例えケイが目を覚ましても、今回の事件に自責の念を負う。
 怪我が完治しても傷心を引き摺ったまま日々を過ごすだけだ。俺はあいつに大丈夫つった発言の責任がある。リーダーや舎兄の責任も当然あっけど、何より不安になっていたあいつを励ましたのは俺だ。

 乗り越えられるって信じてくれたあいつは暴行されても尚、俺を信じた。迎えに来てくれると信じ続けた。俺はあいつの気持ちに報いたい。

 
「ケイが本当の意味でチームに復帰するには、あいつを安心させる手土産が必要なんだよ。ケイはすぐ居場所のことで悩むとこあっからな。自分を卑下するとこもある。だから帰って来るところは此処だって…、此処に帰って来ていいって安心させてやりてぇ。あいつには戻ってきてもらわないと困るんだ。
一時的とはいえ、仲間の離脱は堪える。ハジメの時だって……、あの時はケイが大丈夫つった。帰って来るつった。そしてそれは本当になった」


「ヨウ…」


「なんでケイを狙いやがったんだ。俺狙いなら、直接俺に喧嘩を吹っ掛ければ良かったじゃねえか。あいつが俺の舎弟だからか? まどろっこしいやり口なんざクソ食らえだ。俺はッ…、俺は今まで以上に今回の事件を許さない。許すつもりなんざ毛頭もねぇ」


 安心しろ、馬鹿な真似はぜってぇしないから。

 ひとりになりたいだけなのだと言い放って、今度こそ段を下り始める。そんなあいつに自分ができた事と言えば、「電話をしたら!」必ず出ると約束しろ! ついでに怪我をして帰って来るな! でないと、以降の単独行動は許可しないからな! ……だった。
 片手を挙げて意思表示するヨウに下唇を噛み締め、「誰よりもやばい…じゃないか」静かに目を伏せる。

「今のヨウを放っておくと…、警察沙汰になりそうだな」

 ストッパーを失った今、視野が狭まったヨウの行動を止める奴はケイが選んだあいつ、モトしかいないのかもしれない。




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