006
今しばらく取り乱していたケイだが、徐々に落ち着きを取り戻しベッドに沈む。
頃合を見計らったようにワタルが買って来た飲み物を手渡せば、それを半分ほど飲み干して(飲み方ががっついていて不安だったが)、今度こそ微睡む。落ち着いたんだろう。つくづくココロがいなくて良かったと思える状況だったな。
吐息をつく自分の余所で、「随分と酷な監禁だったんだろうな」タコ沢が同情を示した。水分補給の度合いが半端ではないと眉根を寄せていた。
「熱は高いんだろ? なのにこの飲み方じゃーな…、おい、相牟田。白湯を作ってやれ」
「さゆ?」
「はあ? 知らないのかよ! ったく、白湯ってのはいったん沸騰させたお湯をぬるく冷ましたものだ。起きた時にまたこんな飲み方したらこいつ、嘔吐するかもしれねぇぞ? 今は大丈夫そうだが……、白湯のが体にも優しいだろう。はぁーあ、俺が作っとくからヤカン貸せ」
白湯も知らないなんざ、どうかしている。
タコ沢は愚痴りながら台所に向かった。知らないものは知らない、仕方がないだろう?
だが、タコ沢の面倒見の良さには感謝する(渋々のようだが)。確かにケイの水分補給は尋常じゃなかった。下手すると胃が驚いて吐いてしまうかもしれないのに、ケイは構わず水分を摂取していた。それだけ飲み食いしていなかったんだろう。
「ついでにお粥も作ってあげてよっぴ」
ワタルが台所に立つタコ沢に冗談を言う。
阿呆かと返すタコ沢は、此処には米が無さそうだと斜め上の返答をした。確かに米はないが…、まさかあったら作ってくれていたのだろうか?
ふと自分は窓辺に立つヨウの姿が目に入った。
締め切っている窓の向こうを睨んでいるヨウの表情は険しく、何を考えているのかも分からない。それがやけに不安を煽った。ヨウは今、何を思っているのだろうか?
女性達が戻り、一頻り集会(ミーティング)が行われた。
ケイを病院に連れて行きたかったが時刻が時刻。怪我人も静かに眠っているため、今日は安静にさせようと結論付けた。長時間の集会が終わる頃には夜が明け始めていた。皮肉なことに雨は止んでいる。まるで自分達を嘲笑うかのように。
集会が終わると雑魚寝ではあるが、皆、自分の部屋に留まって仮眠を取った。密集度の高い一室で皆が皆、仮眠を取れるのは疲労しているからだろう。
ただ一人、仮眠もせず部屋の窓辺で喫煙している男がいた。
そいつに気付いたのは自分が仮眠から目覚めてからだ。一睡もせず、晴れ渡った空を眺めているヨウに声を掛ける。微かに湿った髪を微風に靡かせ、ヨウは一点に目を据えていた。何を睨んでいるのか、今の自分には知る由もない。
「寝たか?」悟ってはいれど聞かずにはいられない。「ああ」平然とうそぶくリーダーに吐息をついてしまう。今は奴の嘘に乗ってやるしかないだろう。
「晴れたな」
目に沁みる青空だとヨウが呟いた。
返事は期待していないらしい。視線は向こうを向いたままだ。瞬きをしてリーダーを見つめると、「もしも」今日みたいに晴れていたら、ケイはこんなに衰弱することもなかったんだろうな。リーダーらしくない発言を零した。
「ヨウ…」名を呼ぶと、「雨は」嫌いだ、素っ気無く目前の不良は舌を鳴らした。次いで腰を上げると、ちょっくら行って来るからと踵返して玄関へ。
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