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005


 

「飲めるか…?」


 ペットボトルを差し出して、ケイに声を掛ける。返事はなかったが受け取ってくれた。
 なるべくゆっくり飲んで欲しかったんだが、ケイはあっという間に中身をすべて飲み干してしまう。「お、おい」大丈夫か? がっついた飲み方をするケイにモトが心配の念を寄せていたが、ケイは物足りなさそうな面持ちを作るばかり。
 「のどかわいた」水を飲んだせいで、生理的欲求に火が点いたらしい。取り敢えず寝かせはしたが喉の渇きばかり訴える。自分達のことは分かっていなさそうだ。

「響子ちゃん達に買って来たもらうのも手だけどん。ケイちゃんは一刻も早く飲みたいみたいだし、僕ちん、ポカリでも買って来るよんさま。自販機が近くにあったし」

 自分の私服を身に纏ったワタルがさっさと部屋を出て行く。
 あいつはウザ口調ばかり吐くが、仲間に対する思いは生半可なものじゃないからな。

 率先して動いてくれるワタルに感謝し自分達は部屋に残る。その間、ケイはうわ言を呟いていた。熱に魘されているのかもしれない。両腕で顔を隠して、繰り返し、くりかえしうわ言を呟いていた。気が動転しているのかもしれない。
 どうにか気を落ち着かせてやりたいんだが、声を掛けても応答がなかった。キヨタがベッド付近でそわそわとしている。

「ケイさん。どうしてあげれば…」

「今の俺等じゃ…、どうにもな。無理やり起こすのも手だろうが、それじゃ逆効果だろうし」

 ヨウがそっとケイの肩に触れる。
 途端にうわ言は悲鳴に上がった。その場にいた全員が度肝を抜く中、「嫌だ―!」ケイが大声を出した。それは誰かに助けを求めているような、悲痛な声。ココロがこの場にいなくて良かったと思いながら、大慌てで自分はケイに声を掛ける。
 

「ケイ…、大丈夫だ。此処には…、傷つける奴はいない」
 
「む、無理だ。もう、無理…、むり」


「大丈夫だ! 聞こえっか、ケイ!」


 青褪めているケイの両肩を掴んだヨウが訴える。が、「ヤだって」とケイが突っぱねてくる。
 
 そうしているとワタルが戻って来た。五木やタコ沢も中に入ってくる。二人は浅倉チームで、少しばかり情報の整理をしていた。残業をして此方に来たというところだろう。だからこそ騒動に瞠目していた。
 「田山…」どうしたんですか、この騒動…、困惑している五木に答えてやりたいところだが、それどころじゃない。奥歯を鳴らして傷付いた恐怖心を剥き出しにしているケイをどう落ち着かせるべきか、それが最優先だ。

 冷静に状況を見ていたタコ沢が、「放してやれ」と助言してきた。今はあまり体に触れられたくないんだろ、その言葉になるほどと納得してヨウが手を放す。




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