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003


 

「酷い怪我…っ、キヨタさん、ごめんなさい。其方を拭いてもらえますか?」

「はいっス。ケイさん、失礼します」
 

 ソファーではケイの彼女と舎弟が献身的に介抱していた。

 赤く汚れるタオルを使ってはその場に捨て、使ってはその場に捨て、使っては……、不意にココロがケイの頬をタオルで拭い、言葉を詰まらせて額を合わせていた。「ケイさん」誰がこんな酷いことを、行き場のない感情を吐露しているココロに掛ける言葉も見つからなかった。
 「俺っち」もっとタオルを集めてきますね、キヨタが声を掛けてソファーを離れる。
 部屋を出て行くキヨタの背を目で追いかけていた自分だが、なんとなく不安に駆られて背を追った。親友の呼びかけにさえ反応しなかったんだ。不安が募る。

 するとキヨタはタオルを取りに行くという口実で部屋から抜け出し、ビリヤード場外に出ていた。
 薄暗い階段に出たキヨタは階段に座り込んで、「くそっ」何度も悪態を零して泣き顔を作っている。間を置きいてキヨタに歩み寄った自分は、使っていたタオルを後輩にかぶせて隣に腰掛けた。
 「シズさん…」見上げてくるキヨタに、「此処で吐き出せば…」少しは強がれると思うぞ…、と微苦笑を零した。
 

「仲間を…、守れなかった…んだ。せめて副リーダーとして…、お前の強がりを…支えたい」
 

 大丈夫、誰にも言わないさ。

 相手に意思を伝えると、「こわいんっス」小さな嗚咽を漏らして素顔を見せてきた。相槌を打ってやると、「俺っち…馬鹿だから」本当に馬鹿だから、ケイさんの手当てなんてそっちのけて外に飛び出してしまいそうだ、とキヨタは忙しなく方を動かす。
 「今すぐ」仇を取ってやるとか思う自分がいるのだとキヨタは吐露した。最優先に舎兄の身の介抱をしなければいけないのに、禍々しい感情が占めて暴走しそうなのだとケイの舎弟は泣きを含む声を漏らした。
 
 そっとキヨタの頭に手を置くと、勢いよく飛びつかれる。
 「ショック…だったな」分かる、その気持ち…、痛いほど分かるから。たどたどしい言葉を掛けると、キヨタは今すぐ仇を取りに行きたいと本音を漏らした。相手の素性も知れていない、見えない輩に憎しみが湧き上がって仕方がない。
 けれど今暴走すると仲間が悲しむ。なにより舎兄はそれを望まない。

 だから、だから…。
 

「っ…、俺っち…、舎弟なのに…、舎弟なのに!」


 押し殺す声に目を伏せ、自分はタオル越しからキヨタの頭を撫で続けた。
 「ごめん…な」強がっている後輩に自分は何度も詫びる。せめて自分は副リーダーとして、残された仲間を支えよう。リーダーだけに負荷は掛からせない。リーダーだけには。なんのための副リーダーだ。なんのための……。
 



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