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いっぽんの傘




 
 ―――…奪うのはいつも雨だと、後々リーダーは自分に吐露した。
  
 
  
 
 何故こうなってしまったのだろうか。
 
 自問自答を繰り返してみるが何も答えは出ない。
 ただただ容赦ない現実が自分達を混乱させるばかり。空虚感に苛まれてしまうのは、自分がかなしいと思っているからなのだろう。あまり感情を表に出す方ではないが確かに自分は今、かなしい気持ちに囚われていた。耳障りな雨音と共に。
  
 
 暮夜の下。

 冷たい雨を一身に浴びていた自分は早足でリーダーの下に戻っていた。片手には工具。
 手頃に入手できる工具を持ってとある寂れた路地裏に赴くと、そこにはヨウがぼんやりと膝ついて待っていた。視界が悪くて表情は窺えない。けれどあいつがどんな表情をしてそこにいるのか、手に取るようにわかる。
 
 駆け足がヨウの耳に届いたのか、あいつは首を捻って此方を見てきた。
 待っていたとばかりに向けられる眼。自分はそれに応えるため、あいつの隣に片膝をつき、持っていたペンチで鎖を挟んだ。この鎖の片方は雨樋パイプに、そして片方は二日間不在していた仲間の左手首に繋がっていた。
 そう、自分達は見知らぬ輩からゲームを申し込まれたんだ。ケイという仲間を懸賞品にされて。

 失神している仲間を一瞥し、グリップに握力を掛ける。
 断ち切れない鎖に眉根を顰めた。懸命に握力を掛けていくが、雨で摩擦がなくなっているせいなのか、それとも自分の手が微動しているせいなのか、どうしても鎖が切れない。連なった鎖は錆びかけて、今にも切れそうだというのに。
 と、ヨウがグリップに手を掛けてきた。二人分の握力が掛かると鎖も限界に達したのか、パキッ、小さな断末魔を上げて切れてしまう。

 忌まわしい鎖が切れたことにより、ケイの左腕を折りたたむことができた。
 「これ」外してやれねぇかな。ヨウは消えそうな声でケイの左手首を手に取り、それを見つめる。「やってみる…」ペンチで輪を挟み、握力を掛けたり、捻ってみたり、輪状の薄い層を潰してみたり。
 
 けれど結果はどれも同じだった。
 
 諦めを見せたヨウは一先ず、仲間を浅倉のたむろ場に連れて帰ろうと告げる。
 「これ以上」ケイを雨で濡らしたくねぇ。擦れ声を出すヨウはそう言うや、自分の背に舎弟をおぶった。バイクで連れて帰るのは無理だろう。それを理解していたからこそ、ヨウは徒歩で帰ると言った。距離があると分かっていても、ヨウは歩いて帰ると聞かない。
 だったら自分も歩いて帰るしかない。リーダーが決めたことだ。副がそれに従わずにどうする?
 
 表通りで待たせていた浅倉チームメートには協力してくれたことに礼を告げ、乗ってきたバイクはそっちのたむろ場まで運んでもらえるよう頼む。先に戻って欲しいと付け加えて。
 連絡を受けて工具を持って来てくれた西尾は、自分達の気持ちを酌んでくれたらしい。
 一足先に帰って大量にタオルを用意しておくからと言ってきてくれた。有難い心遣いだと思う。
 



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