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020


  
 これ以上になく擦り寄って甘えてくるココロに一笑し、俺は頭を撫でた。
 随分我慢させてきたもんな。日賀野達との一戦から五十嵐達との喧嘩まで…、すべてが終わるまでココロには我慢をしてもらった。恋人らしいこと、なにもできなかったから。寧ろ泣かせたこともあったな。不本意だけど、ココロを泣かせたこともあった。

 絶対泣かせないって誓ったのに、俺は彼女を大泣きさせたんだ。
 
 そう、あれは俺が一回目の五十嵐戦で負傷した時のこと。かつてヨウ達が使った『漁夫の利』作戦返しを食らった俺は、こっ酷く奴等に痛めつけられ仲間と共に入院を強いられた。まさか自分が入院するなんて夢にも思わなかったよ。
 だから目が覚めた時にはどうして病院に…って、混乱したし、困惑したし、母さん達からは散々叱られたし。

 病院に運ばれて一日中眠りについていた俺は、同室のヨウと三時間差で目覚めた。
 先に目が覚めたのはヨウだったんだ。俺が目覚めた時、あいつから「はよっ」て言われたから。ヨウ自身も丸々一日眠っていたんだってことは後で知った。そして俺達が目覚めて翌日、俺はココロを泣かせた―――…。



 ―――…コンコン。
 
 ノックが聞こえた。
 丁度昼食を取っていた俺とヨウは三分粥が不味い、まずい、もっとしっかりとした固形物を食いたいと愚痴っているところだったんだけど、ノックによって会話を打ち切る。「はい」ヨウが返事をすると、「入るぜ」声と共に響子さんが中に入って来た。

 俺達とは打って変わって無事な姿にホッと息をついてしまう。響子さん、無事だったんだ。良かった。
 ヨウも同じ気持ちみたいで、怪我していない姿に良かったと力なく笑っている。響子さんに続いて弥生が中に入ってくる。ということはココロも、あ、中に入って来た。女子組は全員無事なんだな。本当に良かった。
 
 安堵する俺達に、「ヨウとケイは無事じゃないね」大丈夫? と弥生がありきたりの言葉を掛けてくる。大丈夫だとヨウは苦笑し、持っていた粥の器をベッド用テーブルに置いて肩を竦める。まあ、大丈夫っちゃ大丈夫だ。俺もヨウもおどけられるんだからさ。喧嘩のことはあまり考えないようにしているし。
 そう答えるヨウと俺に響子さん達は苦笑で返す。今は苦笑いしかできないようだ。俺達と同じように。
 
 と、俺はさっきからダンマリになっているココロの様子がおかしいことに気付いた。
 
 病室に入ってからずっとダンマリで俯いてばっかだけど…、俺の方をちっとも見てくれないというか。
 「ココロ?」俺がそっと名前を呼ぶと、やっとココロが顔を上げた。で、俺と視線がかち合った刹那、声にならない声を漏らすと顔をぐしゃぐしゃにして駆け足。ベッドに歩んだと思ったら、ワッとその場に崩れて泣き始めた。
 ギョッと驚く俺を余所にココロはベッドの縁に上体を預けて火が点いたように泣く。「こ、ココロ」うろたえるヘタレ田山なんぞ目にもくれず、布団に縋ってうーうーっと彼女は声を上げるばかり。大パニックもいいところだ。

 だって女子を泣かせるって俺の経験上、殆どないことだぞ! マジだぞ、ほんとだぞ、嘘じゃないぞ!

「こ、ココロ。どうした? なんか、あったのか?」

「そうじゃねえだろケイ。ココロは心配してたんだよ」
 
 ほら慰めたれ、ヨウが仕方がなさそうに笑って俺に助言してくる。

 な、慰めって…、ああ…えあぁあっと…、掛ける言葉も見つからず、俺はぎこちなく彼女の頭に手を伸ばし優しく撫でてやる。一層声を上げて泣かれてしまい、俺は硬直。今の行動はKYか? KYなのか?!

 「おいケイ」ちゃんと慰めてやれって、舎兄から非難されるけど、おぉおお俺だってこんな状況に遭遇したことがないから困り果ててるんだよ!




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あきゅろす。
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