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019


  
 だから俺も故意的に腕を締める。狭くなったことにココロが声を上げたけど、スルーしてゲームに勤しむ。
 殆ど密着に近い体勢で一試合を終えた俺は、画面に映る『YOU WIN!』の文字を尻目に技は盗めたかクエッション。頬を赤らめながらはにかむ彼女は、首を捻って俺を見上げると「ケイさんの体温は盗めたみたいです」ケイさんって体温高いんですね、と茶化してきた。

 体温が高いのは体勢のせいだって。
 俺は自分の部屋をイイコトに、コントローラーを持ったまま彼女を抱き締めた。此処では自由にラブラブしてもいいだろ? 人目もないんだしさ。きっと彼女もこれを望んでいたのだろう。おとなしく腕に収まって、全体重を俺に預けてくる。

 自然と速くなる鼓動は総無視。彼女のぬくもりを貪り、俺は華奢な体躯を抱擁し続ける。
 甘い香りがした。ココロから漂ってくる香りだ。香水の匂いじゃない。これはきっと石鹸もしくはシャンプーの匂いだと思う。微かに植物の香りがした。花の香りなんだろうけど判別はつかない。

 ゲームのBGMだけが流れる室内に会話は飛び交わず。その代わり、ぬくもりを共有して時間を過ごす。密接している互いの鼓動がひとつに融解しているようで、なんかくすぐったさを感じた。
 ココロが俺の手からコントローラーを放させる。よって俺は彼女の体躯を強く抱き締めた。口には出さないけど、彼女が望んだことだ。そして俺も望んでいたことだから。
 
 不意にココロが口を開く。「ケイさんと同じ高校が良かったなぁ」と。
 同じ高校だったら一緒に昼休みが過ごせたのに。お弁当だって作ってあげられたのに。もっと傍にいられるのに。彼女らしい我が儘に一笑して、「シズが羨ましいや」俺は俺の我が儘を彼女にぶつける。
 
 だってシズはココロと同校生、きっと俺より長く彼女と過ごせる。嫉視するわけじゃないけれど、羨ましいことだ。

 薄化粧しているココロの頬を指でなぞると、身を捩って体を反転させた彼女が膝立ちになって俺の両頬を包んでくる。
 
 そして何も言わず、額に唇を落としてきた。
 それはそれはたどたどしい動作、でも積極的な姿勢。骨張った人差し指を俺の唇に添えてくるココロに、微笑して俺は彼女に手を伸ばした。ココロは受身のようで全然受身じゃない。俺も恋愛初心者ではあるけれど、受身ではないと思う。
 そりゃあ羞恥はまだまだ絶大にあるけど…、誰もいないから積極の方が勝る。

 頭部に手を回して自分の方向に引き寄せると薄い唇と重ね合わせた。呼吸も共有するような、小さなちいさな行為。
 多くキスを交わす方じゃないけれど、今日くらいはいいだろ? だって初デートなんだから。今までずっと彼女に我慢を強いていたんだから。
 そっと唇を離す。彼女が動く前に俺はココロを腕に抱いて、体重を後ろに傾けた。仰向けに寝転がる俺の上にはココロがいる。猫のように首筋に擦り寄り、身を沈めてくる彼女の髪を手櫛ですき、俺はココロに感情を紡ぐ。「好きだよ」って。

 人三倍言葉に気を付けないといけない彼女は(ネガティブになりやすいんだ)、常に俺の感情を言葉にして欲しい傾向がある。また言わなくても自分のことを分かって欲しいと想う、ちょっとした我が儘な面もある。

 めんどくさい?
 うん、傍から見たらそうかもしれない。

 でも俺はそのめんどくささも、ひっくるめて彼女のことが好きなんだ。ネガティブの面だって人間だれしもなる一面だろ? 俺だってネガティブになるって。
 多少の我が儘は聞いてやりたい。それで笑ってくれるなら、尚更。

 俺の気持ちを真摯に受け止めてくれる彼女は満面の笑みを浮かべた。大好きな花咲く笑顔に、俺も綻ぶ。目でもっとって訴えられたから、俺は羞恥もプライドもかなぐり捨て、彼女を腕に閉じ込めながら伝える。「大好きだよ」って。




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あきゅろす。
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