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ココロを泣かせた日


  
 ◇ ◇ ◇
 
 
「―――…ケイさん。またゲームオーバーになっちゃいました。強いですよ、コンピュータ」
 

 むむっと眉根を寄せているココロは、テレビ画面に向かって唇を尖らせている。
 自分が鈍くさい自覚はあったけれど、此処まで酷かったなんて! ゲームでこっ酷くヤラれてしまったことを悔しそうに唸るココロは、今度こそコンピュータに勝つと意気込んでいた。その強気な姿勢にうわあ可愛いと思う俺の思考、そろそろ親父化してきているのかもしれない。

 しっかしコンピュータのレベルは1。
 究極に易しいレベルに設定してあるんだけど、彼女も自覚しているとおり、ココロは鈍くさいのかもしれない。というよりゲーム慣れしてないんだろうな。コントローラを持つ手もボタンを連打する指もぎこちない。
 いやぁ初々しくていいと思います。微笑ましい限り! ……この親父圭太め、まじ思うことが親父だぜ?!

「ケイさん?」

 不思議そうにこっちを見てくるココロに、誤魔化し笑いを浮かべて「格ゲーはハイレベルかもな」と言葉を返す。
 さっきまでパーティーゲームをしていたんだけど、ちょっと格ゲーをしてみたいというココロのご要望で今、格ゲーをしている。見事にココロはKO負けばっか。一度くらい勝ちたいと拗ねている彼女の一面を見られて俺は大満足なんだけど(変態チガウよ?)、ココロは不満たらたらみたい。
 どうしたら強くなれるのかと俺に助言を求めてきた。
 
 うーん、どうしたら強く、そりゃあもう日々の積み重ねだろ。

 ヨウが喧嘩のスキルを上げているのは日々喧嘩をしているから。俺がノリのスキルを上げているのは日々ノリをかましているから。ココロ料理のスキルを上げているのは日々料理をしているから。ゲームも毎日していれば慣れるよ。要するに慣れがいっちゃんスキルを上げる近道ってわけだ。
 俺の助言に、「じゃあケイさんのテクニックを見たいです」とココロ。技は見て盗めですから、意気込む彼女にできるかなぁっと俺は意地悪く笑う。

 「できます!」ココロは意地になったのか、ちゃんとテクニックを盗める方法があると断言してきた。

 どれどれ、その方法を見せてもらおうか? と、思った俺はこの直後、超後悔することになる。


 なんでかってそりゃあ、あー…。


「なあ、ココロ。この体勢でやんなきゃ駄目?」

「手元が見えるベストポジションですから!」

 
 えぇええ、でもなんか辛い。視覚的にも精神的にも辛いよ、この体勢。
 俺は自分の腕の中にいるココロに「……」な気分になった。なんで俺はココロを後ろから抱え込むようにコントローラを持ち、コンピュータと闘いを挑んでいるんでっしゃろう。完全に下心ありな体勢だろ、これ。
 いや俺は疚しい気持ちなんてちょっちも! ちょっち…、いや、ちょっちあるかもしれないけど、でもでもそれは思春期の心情としては当然の気持ちでありまして。
 
 とにもかくにも集中できねぇ。例えコンピュータのレベルが1であろうと、ゼンッゼン集中ができない。
 染み付いたゲームの感覚が勝手に指を操作してくれるんだけど、彼女とのこの至近距離…、パないぞ。ココロさん、なんて大胆な体勢を。

 ボタンを連打する俺にココロは感嘆の声を上げて、「指の動きが速いですね」なんで見ないで操作できるの不思議でならないと首を傾げている。それこそもう感覚だろ、熟年の感覚。
 小学校低学年からゲームしていたんだ。慣れない方がおかしっ、うおっつ!

 ココロが俺に寄りかかってきた。

 余計ゲームがやりにくいっ…、視覚的にも精神的にも以下省略。なにワザと? ココロ、それはわざとなの?! と、ココロが笑声を噛み殺しているのに気付いてしまい、俺は故意的なのだと察した。




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あきゅろす。
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