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016


  
 サーッと血の気を引かせる私は、「やっぱり病院に…」スツールから腰を上げるとケイさんに此処で待ってて下さいね、と声を掛け、すぐさま隣室に向かった。
 
 けたたましく扉を開けた私の乱暴な動作に、隣室にいた仲間や浅倉さん達が目を見開く。
 「ココロさん?」どうしたんっスか、キヨタさんがおずおず声を掛けてくるけれど、私はちっとも冷静じゃない。あたふたと「ケイさんが目を覚ましたんです」でも様子がおかしくて、と早口に説明。

「な、なんだか私のことが分かっていないみたいで。びょ、病院じゃないかと」

 過剰反応したのは、苛立ちを募らせて舎弟の目覚めを待っていたヨウさんだ。
 様子がおかしいと聞くや否やケイさんのいる部屋に飛び込んでしまう。私も後を追って部屋に戻ると、ヨウさんが眠りに落ちそうなケイさんに呼びかけていた。

「ケイ、俺が分かるか? 大丈夫か?」

 間延びした返事をするケイさんは、「イケメンだ」とぼそり呟いていた。
 確かにヨウさんはイケメンさんです。女の子だったら見惚れてしまいそうな美貌を持った不良さんです。イケメンは正解ですけれど、ヨウさんが聞いたのは自身のことであって。また瞼を下ろそうとするケイさんはどうにか気力を振り絞って目を開けている様子。

 で、やっとヨウさんの問い掛けにうんっと頷いた。「名前分かるか?」ヨウさんの問い掛けに、ケイさんはうん。「いや名前だって」ちょっと焦るヨウさん、ケイさんはうん。「おなまえだぞ」大いに焦るヨウさん、ケイさんはやっぱりうんっと頷くだけ。


 ……、これは大変危険な状態じゃ。


「あんま大丈夫じゃ無さそうだな。すぐ病院だな。けど何科になんだろ」

「頭をぶつけたんですから、脳神経外科じゃないでしょうか。ど、どうしましょう…、ケイさんが記憶喪失みたいになっちゃったら!」

「ど、ドラマの観過ぎだぜココロ。大丈夫だって。き、き、きっと…、今は判断力が低下しているだけで」

「……、本当ですか?」

「……、た、多分」

 
 不安そうに言われても説得力がありませんよ、ヨウさん!

 あわあわ、でも本当にどうしよう。よくドラマの展開で記憶喪失っていうのがあるけど、本当に記憶がすっ飛んでしまっていたら。私は誰、此処は何処、皆はどなた? みたいな展開になったら、私、な、泣かない自信が……!
 ううん、どんなケイさんだろうと私は傍にいる。いるんだ! ケイさんがどんな私でも受け入れてくれたように、私だって!

「びょういん、いい」

 と、ケイさんが私達の会話に割って入ってきた。
 病院に行かなくても大丈夫だと言うケイさんは、ゆっくりと上体を起こし、「イタッ」頭を押えている。殴られた箇所を押えるケイさんは、酷い頭痛がすると呻いた。頭がズキズキすると苦言するケイさんに、「大丈夫じゃねえだろ」ヨウさんはソファーの縁に腰掛けて彼に無理するなと紡ぐ。
 
「ケイ。テメェ、頭殴られて気ィ失ったんだって。脳震盪でも起こしたのかもしれねぇし…、やっぱ病院行くべきだ。なんか俺等のこと、あんま分かってなさそうだしな」
 
「んー、分かるって…あー…」

 喋る元気が出てきたのか、ケイさんは私とヨウさんを交互に見やって大丈夫だとばかりに笑顔を作ってきた。

「俺は田山圭太だろ。で、お前は荒川庸一だろ。そっちが若松こころだろ。うん、かんぺき…、おはよう、二人とも。俺、超元気げんき…、あー…なんで頭痛いんだ。殴られたって何? 大体此処は…」

 どうやらケイさんはヨウさんの言うとおり、判断力が低下していただけみたい。自分の名前も私達の名前もしっかりと口にできた。
 ホッと安堵する私とヨウさん。私はケイさんの疑問に答えてあげることにした。
 



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