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015


  
「色んなことあったけど、俺は今、ケイと舎兄弟を結んでいることに誇りを持っている。不釣合い? 手腕がない? 不良? 地味? だからなんだ。俺の舎弟はこいつだけだ。あの日、面白がって舎兄弟を結んだ手前によくやったって言ってやりたいよ」

「ヨウさん…」

「なんかこう、ダチだけどダチじゃねえんだよ。ケイとはさ。親友ってのもちげぇし。んー、なんだろうな。舎弟ってのが一番しっくりくるんだけど、でもまだもやっとしてる」
 
 言葉が見当たらない、頭を掻くヨウさんに私は一思案。
 そして手を叩き、「相棒ですね」とリーダーを見つめる。「それだ!」スッキリしたとヨウさんは指を鳴らし、まさにそれなのだと私に微かに頬を崩した。
 

「俺はケイを相棒だって思っている。だから、こんなところで倒れられちゃ困るんだよ。マジ…、俺との約束があんのにっ。―――…困るんだよな、ケイまで離脱されちゃ。あ…悪いな、ココロ。つまらねぇ話を聞かせちまって。ケイを頼む。俺はやることがあっから」


 起きたら一報寄越してくれ、また様子を見に来るから。
 そう言ってヨウさんは退室してしまう。背を見送った私はソファー側のスツールに腰掛け、「相棒か」なんだか羨ましいなぁっと笑声を零す。男の子にしかできない、作り出せない、築かれない友情を見せ付けられた気分。

 私とケイさんじゃきっと無理だと思う。
 私と弥生ちゃん、響子さんの関係をケイさんと生み出そうとしても無理なように、私とケイさんじゃヨウさんとケイさんのような友情は生み出せない。舎兄弟ってそれだけ二人にとって特別なものなんだろうなぁ。
 
 何事もなかったように眠りに就いているケイさんに綻び、私は彼の手を取って優しく握る。
 一回り大きい手を見つめ、指を絡め、何事もありませんようにと彼の寝顔を見つめる。もし何かあるなら、すぐ病院に。大丈夫、私は何があってもケイさんの傍にいる。ケイさんが私の傍にいてくれたように、私も彼の傍にいる。

「ケイさん」

 手を頬に寄せ、私は大好きな人の名前を紡いだ。微かに動く指はそれ以上、動くことなく、静かに指の腰が曲がっている。
 私は誰も見ていないことを良いことに(ちゃんと部屋を二度も渡した)、音なく腰を上げて彼の前髪を掻き分ける。そしてその額に唇を落とした。さっきのお返しだ。ひとりで照れ笑いする私は、「大丈夫ですよね」眠っている怪我人に声を掛けた。勿論応答なんてなかった。
 
 ケイさんはよく眠った。
 本当に深い眠りについているようで、まったく寝返りを打つ気配がない。度々ヨウさんが様子を見に来たんだけれど、その度に私は目覚めていないと首を横に振るしかなかった。次第次第に不安も募っていく。頭を強打したのだから、もしかして脳に損傷が出ているんじゃ。
 訪れるヨウさんの表情も焦燥感と並行して憂いが垣間見えていた。
 や、やっぱり病院かもしれない! これだけ気を失っているのだから、きっと何かあるんだ!

 持ち前のネガティブがいかんなく発揮し、それが絶頂に達した頃、ソファーから身じろぐ音が聞こえた。
 ハッと我に返った私は怪我人の顔を覗き込む。そこには重たそうな瞼を持ち上げるケイさんの姿。良かった、目が覚めたんだ。安堵の息を漏らしながら、私はケイさんに声を掛けた。
 でもケイさんは私をぼんやりと見つめるだけ。反応が薄い。
 
「ケイさん。大丈夫ですか?」

 恐る恐る声を掛けると、五秒ほど時間を置いてケイさんはうんっと返事をした。
 ちっとも大丈夫そうじゃない。焦点が定まっていないもの。ケイさんは自分が誰かも分かっていないように、ただただ重たそうな瞼を下ろしては持ち上げている。「私が分かりますか?」自分を指差して簡単な質問を投げかける。視線を投げるケイさんはさっきよりも長くを置いてうんっと頷いた。

 じゃあ私の名前は? 聞くと、ケイさんはダンマリ。大慌てでケイさん自身の名前を聞いてもケイさんはダンマリ。私の声が届いているのか届いていないのか、分からない反応だ。




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あきゅろす。
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