014
避難場所は浅倉さんチームのたむろ場。
負傷したケイさんを連れて来た私達に向こうは驚いている様子だったけれど、事情を聞いてすぐ彼を休ませられる場所を提供してくれた。ソファーにケイさんを寝かせて目覚めを待っていたんだけれど、なっかなかケイさんは目を覚ましてくれない。
確か頭をぶつけて失神してしまったら、時間帯によって危険度が分かるって言ってたような。ケイさんが数時間も目覚めないようなら、本当に病院かもしれない。
「ケイさん」私を励ましキスも交わした、そんな直後にこんなことになってしまうなんて。
眠っているケイさんの手を握り、早く目覚めてくれるよう私は祈った。チームメートも凄く心配しているから。「そうだ飲み物」もしケイさんが起きたら、水分補給させてあげないと。私は一旦ケイさんの傍から離れて、皆がいる隣の部屋に移動。
私が出てきたことで目が覚めたのかと仲間達から期待の眼が向けられてしまう。「ケイさんは」首を長くして目覚めを待っているキヨタさんに、私は首を横に振る。
「まだケイさん、目が覚めてないんです。ちょっと飲み物を買ってこようと思いまして」
「だ、だったら俺っちが行って来ますッス! 何がいいッスか? お茶? ジュース? それとも酒?!」
いえ、お酒はどうかと思います。
「じゃあ緑茶を」きっとその方が彼も飲みやすいと思うから、私の言葉にすぐさま買って来るとキヨタさん。「あ、こら!」ひとりは危険だってっ、モトさんは苦笑して飛び出したキヨタさんの後を追う。ほんと、兄分思いだなぁ。キヨタさん。
苦笑して部屋に戻ろうと踵返す。
「あれ?」部屋の向こうにヨウさんが…、いつの間に。目を真ん丸にする私にシズさんが肩を竦めた。
「心配…、なんだろ。ケイのこと。あいつが、一番動揺…していたからな」
「ですよね。ヨウさん、とても動揺して」
「舎兄なんだ…、きっと…、思うことがあるんだろ」
思うことが。
私は恍惚にリーダーを見つめ、そっと部屋に戻ると彼に歩んで声を掛けた。
ケイさんの寝顔を見つめるようで、宙を見つめていたヨウさんは私の呼びかけにハッと我に返る。ぎこちなく笑みを浮かべ、「どうした?」と聞いてきた。どうかしたのはヨウさんだと思うけれど、深くは掘り下げない。
あまり目が覚めないようなら病院ですよね、力なく眉を下げて話題を切り出すとヨウさんは生返事。
心配ですね、言葉を重ねると意外なことに心配はしていないと返された。誰がどう見ても心配していると思うのだけれど。顔色を窺うと、「絶対大丈夫だ」私を安心させるように肩に手を置いてきた。ケイなら大丈夫、ヨウさんは繰り返し台詞を紡ぐ。
まるで自分に言い聞かせているよう。視線を持ち上げると、「だってこいつは」俺と約束したから、苦笑混じりに肩を竦めた。
約束。
そういえばヨウさんはさっきから何度も“約束”を口走っている。ケイさんと何か大切な約束でもしているのかな? その旨を聞くと、こりゃ男の秘密だとヨウさんは受け流してしまう。男の秘密というより舎兄弟の秘密に近いと思うのだけれど。
私は彼に尋ねる。ヨウさんにとって舎兄弟ってなんですか? と。
唐突過ぎる質問に面食らっていたヨウさんだけど、間を置かずに返答してくれた。「ダチだけどダチじゃねえ、かな」と。
それはそれは曖昧な返事だった。
ヨウさんは指の関節を鳴らし、うーんっと唸る。
「最初こそケイとは成り行き…、それも面白いって理由だけで舎兄弟を結んだ。ぶっちゃけさ、つまらなくなったら俺、白紙につもりだったんだ」
「まあ」素の声を上げる私に、「最低だな」自覚はあるとヨウさん。
でもあの頃は自分にとって舎兄弟がどういうものになるのか、想像もつかなかったのだと語る。飽きたら白紙にして普通に友達として接していこう、そう思っていたのに……、舎弟は最初から舎弟として自覚を持って意識し行動を起こしていた。
それこそケイさんが初めてチームに顔を出したあの日。仲間のピンチに飛び出したヨウさんを追い駆けて来た、あの日から、その前からずっとケイさんは舎弟として。
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