013
途中までは良かったんだ。
ワタルさんが私達のピンチに気付いて、応戦してくれた。そこまでは良かったんだけれど。
一度はワタルさんに伸された不良が完全に伸された振りをして、私達の隙を窺い、背を向けたケイさんの頭部に向かって木材を振り下ろされた。「ケイ!」さすがのワタルさんも大焦りで、その不良を今度こそ伸したんだけれど、ケイさんはその場に崩れてしまった。
「け、ケイさん!」
窓枠に足を掛けて外に飛び出した私は、崩れているケイさんに声を掛ける。これっぽっちも応答がない。震える手でケイさんを仰向けにして体を揺するんだけど、目を覚ます気配すらない。呼吸はしているみたいだけど…、血相を変える私の揺する手を止めたのはワタルさんだった。
「頭やられてるんだ」下手に動かさない方がいい、ワタルさんは油断したと舌を鳴らして眉根を寄せた。
「じゃ、じゃあ病院に」
「少し様子を見るべきだ。どっちにしろ、今の状況じゃっ、ほーらまだお出ましだ!」
金網フェンスから上ってくる不良達に、「お前等はB級ホラー映画に出てくるゾンビか!」普通そんなところから登場はしないとワタルさんはツッコみを入れ、上りきる前に振り落として対応。
私は自分の気を落ち着け、自分にできることを探す。ケイさんは下手に動かさない方がいい。脳震盪を起こしている可能性もあるのだから。
だったらできることは。倉庫の中に戻った私はわりと早く決着がついた様子を見るや近くにいたリーダーに声を掛け、大変だと状況報告をする。どうしたのだと汚れたブレザーを脱ぎながら質問してくるヨウさんに、「ケイさんが!」私は切迫した面持ちを作った。
動きを止めるヨウさんは、ケイに何かあったのかと瞠目。首肯し、木材で頭部を殴られて気を失ってしまっているのだと報告した。今、倉庫裏でワタルさんが他の不良達を相手にしている。どうか手を貸して欲し―…、あ! ヨウさん!
私の言葉を最後まで聞かず、ヨウさんは窓を使って倉庫裏へ。
急いで私も後を追うと既にワタルさんは刺客を蹴散らしていた。応援はいらなかったみたい。でもケイさんは相変わらず気を失っているようで、目を覚ました気配はない。「おいケイ!」怒号を上げるヨウさんは体を抱き起こそうとするけれど、弥生ちゃんが駄目だとそれを制した。
頭をやられている。下手に動かしたらアブナイかも。彼女の助言に舌を鳴らし、「お前ふざけんなよ!」何しているのだとケイさんを怒鳴りつけた。気を失っているケイさんからは応答がない。
でもヨウさんは掴みかかる勢いで相手に怒号を上げていた。その剣幕に思わず弥生ちゃんやワタルさんが制するほど。
「ケイ、テメェっ、約束しただろうが! 何してるんだよっ。この馬鹿!」
「お、落ち着いてヨウ。ケイは失神しているだけだよ」
「約束破ったら承知しねぇからな! マジっ、張り倒すからな!」
「こらこらこらっ、ヨウちゃーん。気を失っている怪我人に言っても無駄だからっぱ!」
こっちが冷静になってしまうほど、ヨウさんは動揺している様子だった。
それから程なくして仲間達が倉庫裏に集い、キヨタさんが「うわぁああんけいさぁあああん!」と想定できた嘆きをBGMに、私達は一刻も早くたむろ場から去ろうとケイさんを連れて避難した。
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