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012


  

「なあココロ、前にも言ったけど、その…笑った方が好きだからさ。落ち込んでもいいし…、卑屈になってもいい…、でも最後は笑って欲しいんだけど」

 
 そう言って彼は、私の腫れた目元を親指でなぞってくる。
 やけに真剣な面持ちを作ってくるケイさんに緊張を抱いた私は、もしかして…、と期待に胸を膨らませた。だってケイさんはゆっくりと私の頬をなぞって、視線をかち合わせて、目と鼻の先まで顔を近付けて。
 
 頬を赤く染める私を見て彼は我に返ったのか、「み。皆が待ってるよな」行こうかとぎこちなく笑みを浮かべてくる。
 え、まさかの寸止めですか。落胆する私の気持ちに気付いていないケイさんは、私の前髪を掻き分けて額に唇を落としてきた。嬉しいけれど嬉しくない。私は皆のところに戻ろうと言うケイさんの膝から退かず、ブンブンと首を横に振ってこれじゃ嫌だと我が儘を言ってみた。
 私の我が儘に目を点にしていたケイさんだけど、「折角我慢したのに!」意図に気付いて赤面も赤面、真っ赤になった。

 だってあそこで顔を近付けられたら、期待しちゃうと思うんですけど。
 私、空気の読めない鈍ちゃんじゃないですし、そ、その、泣いた直後で決まりは悪いですけど、シたいんですよ。女の子として、その、ケイさんが仕掛けようとしていたキス。

 だから我が儘を言ってこれじゃあ嫌だと言って見せた。
 唸るケイさんは我慢したのにココロのせいで、とブツクサ文句を零し、そして荒々しく腕を引いてきたと思いきや片手を柔らかな頬に添えて唇を重ねてきた。
 それは一瞬だったのか、それとも数秒、間があったのか分からない。でも私はケイさんとファーストキスを交わした。添えられている手に手を重ねて、彼とキスを交わしたんだ。まるで夢みたいな時間。
 
 そっと唇を離すと、ケイさんは気恥ずかしそうに頬を掻いて私をチラ見。
 同じ顔をする私に一笑し、「ファーストキスは涙味」とおどけてきた。つい笑ってしまう私がいた。ほんと、ケイさんには元気を貰ってばかりだ。そんな彼に、私は卑屈じゃない決意表明を零した。

「焦らず…強くなっていきたいと思います…。古渡さん…負けたくないです…。でも…、ヒトリじゃむり…、だから、傍…いて…下さい」
 
 するとケイさんはご機嫌にこう答える。
 

「頼まれなくてもいるよ。ココロの傍にいる。だから、俺がどうかなった時は傍にいてくれな」

 
 ―――…はい、勿論。

 私はケイさんに満面の笑みを浮かべ返事した。
 傍にいればいるほどケイさんにのめり込む自分がいる。大丈夫、私はまだ頑張れる。こんなにもケイさんに励ましを貰ったんだから。時には傷付いて自分を見失うけれど、きっとケイさんや仲間が私を支えてくれる。もう少し仲間を信じてみよう。私が一緒にいたいと思ったチームを、もう少し信じてみよう。
 大丈夫、ケイさんや皆がいる、ケイさんがそう言ってくれたんだから、きっと大丈夫なんだ。
 


 そう思っていた矢先の出来事、ケイさんは倒れてしまう。

 
 私が散々動揺し泣きじゃくった後のことになる。皆に迷惑をかけてしまったことを謝罪して、古渡さんについてチームメートに教え終わった頃合を見計らったように、刺客が現れたんだ。それはもうびっくり仰天! わざわざたむろ場に名も知らない不良達が押しかけてきたんだから!

 でも相手が日賀野さん達の刺客っていうのは分かった。
 バイク相手にも怯まず、喧嘩できる人達は率先して動き、非力組はなるべく足手纏いにならないよう避難する。
 ケイさんは私と弥生ちゃんを逃がすために窓から倉庫裏外へと避難させようとしたんだけど、先回りされ刺客の手が伸びた。どうにか私達はケイさんの誘導の下、魔の手を逃れたんだけれど、ケイさんは……。




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