011
「俺は優しい人間じゃないよ。人様の卑屈を聞くと、『ちょいこら待て勘弁しろ!』な気持ちになる」
でも…、ココロは不思議とそうならない。
きっとひっくるめて好きだからなんだろうなぁ。言っただろ、俺はココロじゃないと駄目だって。ココロの卑屈なんかで、簡単に俺の気持ちを変えられるわけがない。簡単に変えられません。残念でした。
それとも簡単に変えられると思った? そりゃ無理だって絶対に。ココロでも無理だよ。
「俺の気持ちは俺にしか変えられない。ココロでも無理だ。俺はココロが好きだ。卑屈になっても、泣いても、弱くても。不安ならもう、丸ごとくれてもいいよ。ココロのネガティブ」
だってそれさえも好きなんだから、重ねる言葉が胸を締め付けてくる。
にっあわねぇな俺がこんなクサイ台詞言うと、照れるケイさんを瞳に映して私は嗚咽を漏らす。独りじゃない、仲間がいる、そして私の卑屈ひっくるめて好き、何度も伝えてくれるケイさんが好きだと、改めて好きだと思った。どうしたって私はケイさんが好きで、仲間が好きで、チームが大好きなんだって思った。
ケイさんはトドメをさしてくる。それは今まで孤独だった私がどうしても欲しかった言葉。
「仲間も、そして俺もどんなココロを知っても傍にいる。俺、ココロの傍にいるから」
こうやって傍にいる、いるよって。
「う゛ぁっ。ぅぁあ…ああっ、…ケイざんっ! 圭太さんッ―――ッ!」
もう我慢ができなかった。
大声で彼の名前を叫んで、私はケイさんの体を掻き抱いた。体を受け止めてくれるケイさんは勢いよく尻餅をついていたけれど、一抹も構う余裕はなかった。驚くケイさんを余所に私は肩口に顔を埋め、「私」死にたいって思った日があったんですっ、声を振り絞って相手に吐露する。
本当に死んでしまおうかと思った日もあった。それだけ苛めは心を蝕み、生きることすら病ませ、目の前を絶望に染め上げる。必死に小中時代を過ごしてきたけれど、じいじやばあばを悲しませるから、それはできなかったけれど。でも本当は。
「…、いつか…、死んでしまおうって…、わたしっ…、いつも…いつも」
ケイさんが強く抱擁してくれる。
過去の古傷(化膿傷)を抱き締めてくれるケイさんは、「好きだよ」卑屈でいいから、弱くていいから、ココロが好きだから、繰り返し気持ちを告げてきてくれた。「独りにさせてあげない」嬉しい言葉に、応えたい気持ちはあるけれど嗚咽が邪魔して邪魔して。だから私はケイさんの名前を紡いだ。
ケイさん、じゃなく圭太さんって呼んでしまうのはどうしてだろう?
広い背中に縋って、そのぬくもりを抱いて、私はただひたすらに彼を求めた。
本当の意味ですべてを受け入れてくれる彼を好きになって良かった。本当に良かった。私は過去の自分に頑張って生きようと、生にしがみついた自分を褒めてあげようとさえ思った。だって過去の私が死んでしまえば、ケイさんに出会うこともなかったのだから。
泣きに泣きじゃくった私はケイさんの腕の中で、気を落ち着け、そのぬくもりに幸せを噛み締めていた。卑屈も吐き出せば空っぽになるもので、気が落ち着く頃にはすっかり気持ちが晴れていた。
いつまでも抱き締めてくれるケイさんは、身じろぐ私に気付いてよしよしと背中を擦ってきてくれる。あったかい手に綻んでしまった。
何より贅沢なぬくもりだとさえ思った。もう大丈夫だと告げれば、「ん」良かったと綻び、ぎこちなく手を伸ばしてきた。
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