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 でも動けない私は膝を抱えるばかり。「すぐあいつが来るから」あいつに甘えなよ、響子さんは髪を撫ぜて苦笑いを零す。程なくして、響子さんは手を離して腰を上げた。微かに「頼んだぜ」という声が聞こえる。
 ということはケイさんが此処に来たということで。

 また気分が悪くなってきた。
 嘔吐感が込み上げてくる中、彼は私の前に立って膝をつく。大丈夫と聞いてくる言葉に答えようと、首肯するもののそれ以上の行動は起こせない。嫌われる態度を取っているという自覚はあるけれど、どうしても体がすくんで動けないんだ。
 ケイさんは気にしていないのか、肩に手を置いて、「どうした?」どうしてそんなに落ち込んでいるの? と聞いてくる。引き続き、「写真のこと…?」私の過去に踏み入れようとするケイさんがいた。無意識に体を震わせてしまう私、彼はそれ以上踏み入れようとはせず、頭に手を置いて優しい言葉を紡いだ。

「言いたくないなら言わなくてもいいから。少し、此処で休んだら皆のところに戻ろうな。皆、心配してるから」
 
 その優しさが、胸に沁みて少しだけ喋る勇気をくれる。
 私は膝を抱えたまま、ケイさんに何度も何度も古渡 直海さんのことについて伝えた。彼女が私を苛めていたことや、また苛めてくるんじゃないかって思ってしまう弱さ。写真を見ただけで吐き気がしてきた自分が不甲斐なくてしょうがないこと。
 ちょっとだけ顔を上げて、私は二の腕に爪を立てながら涙目で彼に吐き出す。
 
「…被害妄想が出てきて…、苛められるって…思って…、卑屈になる私がいて…、情けなかったんですっ…。強くなる…、決めたのにっ。ケイさんと…、全然…釣り合わない…」
 
 もう卑屈と罵られてもいい。
 これ以上の醜態を見せてしまうなら、いっそケイさんに嫌われてしまいたい自分がいる。落胆されてしまうくらいなら、もういい。嫌われてしまっていい。だって変われていないんだもの。あんなにケイさんに見合おうと頑張っていたけれど、ケイさんはチームのため、舎兄のために我武者羅に走って走って走って。対して私は頑張ろうと口ばかり。私は何を頑張れている? 何も頑張れていないじゃない。何も。
 
 ちっとも変われていない自分に自己嫌悪、卑屈になる自分に自己嫌悪、過度な被害妄想を抱く自分に自己嫌悪。
 すべてに自己嫌悪していると、「それで?」ケイさんが他にはないのかと、意外な言葉を掛けてきた。洟を啜って私はぶちまけるだけぶちまいた。

「変われていないから…、響子さんにも、弥生ちゃんにもっ…、チームに迷惑かけて」

「うん」

「ケイさんにも迷惑かけて…」

「うん」

「弱いし、意気地なしだし…、卑屈だし」

「うん」

 一つ一つに相槌を打つケイさんの優しさに甘えてしまい、私は思いつく限りの嫌悪を相手にぶつけた。
 やがて吐き出す嫌悪も見つからなくなって、私はケイさんの反応を窺う。びっくりした。だってケイさん、あどけなく笑っていたから。「もう吐けるのないな?」吐けるだけ吐けたか? 問い掛けに頷くと、よーしよしと一笑してぐしゃぐしゃに頭を撫でてくる。
 もっと驚いてしまう私に、「俺はココロを嫌ってあげません。あげられません」心を見透かしているケイさんはおどけてきた。寧ろ、卑屈になりたい時はなればいい。誰だって卑屈になるんだから、と彼は優しさばかりを向けてくる。

「ココロ、卑屈になりたい時はなればいいさ。そうやって弱音を吐いて、吐くだけ吐いたら、前を向けばいい。ココロはひとりじゃない。前を向けば、俺や響子さん、仲間が待ってる。皆、ココロを必要としてる。忘れないでくれな、ココロは必要とされてるんだ。何よりも…アー、俺にな」

 じわっと涙が込み上げてきた。
 誰かに必要とされている。ううん、ケイさんは卑屈の私を受け入れてくれている。それが分かるから涙が込み上げてくる。どうして卑屈になる私を受け入れてくれるのか、相手に訪ねるとケイさんは笑みを深める。




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