009
それこそ不登校になる領域だった。
学校に来れなくなった子をせせら笑い、弱い弱いとぞんざいに言い放つ古渡さんの権力は絶対だった。
人の心を踏みにじることを快感としているようだった。それこそゲーム感覚。
自分の友達同士で小競り合いをさせたり、友達の彼氏を寝取ったり、自分に逆らう輩は制裁を下したり。あれは教室の独裁者に近かったかもしれない。
彼女のせいでどれほどの疎外感を抱いたか。
なにかとグループを作るとき、絶対独りを強いられていたあの学校生活。その独りになる私に、「オトモダチいないんだね」カワイソー、でもあの性格だからしょうがない。根暗だし、被害妄想も多いし、うじ虫でトロイしブスだし。聞こえる陰口を毎日のように叩かれた。折角できた友達も、いつの間にか古渡さん側について一緒に私を苛めてきた。
大事な学校生活を彼女に取られてしまったんだ。
小中時代は必死に耐えてきた、あの陰湿なストレス発散の日々。どうにか耐えて耐え抜いて…、今があるのに。独りを強いて、孤独感を抱き、表情を歪ませることが大好きだった古渡さんから、進学してやっと彼女から解放されたと思ったのに。響子さんという素敵な先輩と出逢い、私を受け入れてくれる人達に出逢えたのに、不良でもすっごくあったかい人達に恵まれたというのに。
何故、どうして?
私はどうしてまた彼女にめぐり合おうとしているの?
彼女の魔の手に掛かろうとしているの?
瞬時に溢れてくる記憶が胃にストレスを与え、嘔吐感が込み上げてきた。
どうにかこれ以上思い出したくない思い出に蓋をして気持ちを堪える。でも震えは止まらない。写真を見て動揺してしまう私はそれから目を逸らし、ブルブルと体を震わせ、震わせ、震わせ。心配してきた響子さんの声が引き金となって、嘔吐感が絶頂に達した。
嫌、折角めぐりあえた人達を、友達を、好きな人を奪われたくない―――!
「は、吐きそうです…」
私が小声で訴えると、ギョッとチームメートが目を削ぐ。
本当に吐きそうだ。嘔吐(えず)く私に、「ココロ。外に行くぜ!」響子さんが肩を抱いてその場から連れ出してくれた。弥生ちゃんも後から追って来る。倉庫裏まで来た私はその場で両膝をつき、嘔吐しようとするんだけどどうしても吐けなかった。込み上げてくるのは恐怖心ばかり。
また恐れていた日々が始まるんじゃないかという被害妄想が込み上げてしまい、呼吸さえ忘れてしまう。
「ココロ。水飲める? 私の水、あげるから」
弥生ちゃんに声を掛けられているのは分かるけれど、言葉は耳に入ってこない。
「やっぱり私は」根暗で何もできないうじ虫なのだと嘆き、古木材に背を預けて膝を抱える。「ココロ」そんなことないよ、弥生ちゃんの言葉が遠い。「あの女になんかあんのか?」うちがぶっ飛ばしてやるからさ、響子さんの言葉さえも遠い。何もかもが遠い。
こうしてウジウジする自分が嫌いだ。被害妄想に陥る自分が嫌いだ。何もできずに嘆く自分が嫌いだ。
吹っ切ってもいい過去を吹っ切れず、皆の手を煩わせている自分が何よりも嫌いだ。素敵な皆と出逢っても、卑屈な性格はちっとも変わっていない。嗚呼、私なんてちっぽけだ。こんな私がチームに居ていいのかどうか、それさえも分からない。
「大丈夫だ。な?」響子さんが言葉を掛けて頭を撫でてくれるけど、私は首を横に振るばかり。ガクガクと震える私に幾度となく慰めの言葉を掛けてくれる響子さんだったけど、埒が明かないと踏んだのか、弥生ちゃんにこう告げた。
「ケイを呼んで来てくれ。うち等より、ケイのがいいと思う」
「うん、分かった。すぐに呼んで来るから」
此処にケイさんが来る。
い、嫌。彼にこんなウジウジした姿を見られたくないっ、ないよ。
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