008
さて話は戻りまして。
こうして私達は決着をつけるため、多忙な毎日を送っていた。
誰よりもハジメさんの仇を討つと意気込んでいるのは弥生ちゃん。些少の情報でも入手して、チームの利益にしようと頻繁に学校をサボって街を歩いていた。彼女の情報収集源は様々。他校生からの情報もあれば、通っていた塾や水泳クラブ等々の友達から情報を仕入れることもある。時には見知らぬ人に聞き込みをすることもある。弥生ちゃんは基本的に行動派だから、そういう情報収集力には長けているんだ。
聞き込みをしたり、ちょっとヤバそうなたまり場に進んで足を運ぶ弥生ちゃんに、私は引っ付いて回った。
私達だけじゃ危ないからって響子さんやタコ沢さん(谷沢さん?)も一緒に引っ付いて回った。タコ沢さんは不良の内情に詳しいから、弥生ちゃんの情報収集と兼ね合わせるとより強い情報収集力なる。
何より行動力のある弥生ちゃんは、いつもの三倍行動力を発揮してハジメさんのリンチ事件を隈なく調べていた。
日賀野さん達との決着と並行してハジメさんに手を下した輩を討ち取りたい。
弥生ちゃんの強い気持ちが篭っているんだ。特に弥生ちゃんは、ハジメさんがヤラれる前に出た女性の行方を追っている。「ハジメを誑し込む振りをしてっ」絶対許せないっ、私の方がハジメをいっぱい想っているんだから! と、彼女は怒りに燃えに燃えていた。
私自身、電話に出たあの女性の声になんとなく聞き覚えがあったような気がするけど、あの時はハジメさんのことで頭がいっぱいだったからそれ以上思うことはなかった。
まさかあの声の持ち主が、私の見知った人物だなんてその時は夢にも思わなかったんだ。
私が彼女の正体に気付いたのは、某放課後の集会にて。
弥生ちゃんが執念で辿り着いた情報を仕入れた時のこと。彼女はこいつがハジメに歩んだボンクラ女だって喝破し、持参していた写真を地面に叩きつけて仲間に知らせていた。男子達は揃いも揃って女の胸に目を向け、ボインだのDカップだのなんだの言っていたけれど、……ケイさんも胸にいっていたの、見ていたけれど、私は写真を一瞥して血の気を失ってしまった。
写真に写っていた女は私が思い出したくない、尤も恐れている女性だったから。
彼女の名前は古渡 直海さん。
小中学時代に私を苛めていたクラスの中心人物。
女版番長的存在で、女子の中でもリーダーシップを取る人だった。彼女は私のようなおとなしい子を見定めては、ストレスの捌け口にする人だった。何をされていたか、まざまざと脳内に蘇る。
あれは三年の時、まだクラス替えをして間もない頃。
同じクラスになった彼女はすぐに私をおとなしい奴だと見定め、パシリにするべく友達になろうと装って歩んできた。誰でもいいから友達が欲しかった私は、警戒心を抱くこともなく彼女を受け入れたんだけど、それが間違いだった。
彼女は私を顎で扱い、あれやれこれやれそれやれ…、嗚呼、思い出したくもない陰湿で粘着質の高い学校生活。
時に悪戯と名目して体操着を隠され、美術に提出する筈だった募集ポスターに落書きをされ、教科書の中ページを数枚破られ。上靴が何度溝に放られていたことか。汚れた上靴を見て、わざとらしく古渡さんが可哀想にと同情してティッシュをくれたあの屈辱、忘れもしない。嫌な仕事は私ばっかり押し付け、「ココロ優しいもんね?」と笑顔で脅されていたという。
しかも私のできた友達を次々奪ってしまい、「アンタにはいらないでしょ?」だって根暗だし、誰も必要としていないと嘲笑されたあの時の思い出。
彼女は表向き、クラスメートのために動くような行動を見せていたから、教師達の目は易々と掻い潜っていた。寧ろ良い子ちゃんとして評判のある子だったんだ。教師を味方に付けてしまわれては、クラスメートも成すすべはない。
古渡さんのご機嫌を取りつつ、彼女の味方にいれて貰うしかなかったんだ。
勿論果敢に反論する男女子生徒もいたんだけど、そういう子がどうなったか…、私以上にこっ酷い目に遭っていたことを、私は知っている。
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