006
「ただ俺よりも落ち込んでいる奴がいるって知っているから俺自身、そんなに落ち込んでいられないって気持ちもあるんだ」
ケイさんの指す“奴”が誰なのか、手に取るように分かる。
「俺にできることは」あいつが崩れないようつっかえ棒になってやることなんだと、ケイさんはまたひとつ苦笑し、財布を取り出して五百円玉を投入口に押し込む。
「支え棒じゃなくて、つっかえ棒なんですか?」
笑う私に、「俺にぴったりだろ?」支え棒なんて大それた肩書きにはなれそうにない、だからつっかえ棒なのだとケイさんはおどける。
落ち込んでいる相手をそれ以上、落ち込ませないようにつっかえ棒になる。それが自分にできることだとケイさんは断言した。まるで自分の役目を知っているかのよう。ああ、やっぱりこの人は強いなぁっと思った。
「ココロもさ。あんま思いつめないで、自分のできることをすればいいんだよ。弥生のことで何か思うことがあるんだろうけど、ココロは精一杯のことをしているんだから」
サイダーを購入したケイさんは、早速自販機から取り出してプルタブに指を引っ掛けた。
缶に口をつけて喉を潤すと、「ダイジョーブ」ハジメは絶対帰ってくるから、私の頭に手を置いて励ましをくれた。「実はさっき弥生にも」大丈夫って言ったんだ、確信もないのに調子ノリは見栄を張ってきたのですよ。これは秘密話だと人差し指を立てるケイさんに呆気取られる。仲間に気遣う余裕がケイさんにあるのか分からない。
でもケイさんは、仲間を気遣えないリーダーの分まで誰彼に気を配っている。それは舎弟として動いているのだろう。以前、ケイさんは私にこんなことを教えてくれた。
舎弟は常に舎兄の背負う重荷を折半し、それを背負う存在なのだと。
ケイさんは舎兄の背中を預かっている舎弟として、舎兄のため、仲間のために裏でこっそり動いているんだ。それってすごくカッコイイことだと思う。
(ケイさんに見合いたいなぁ)
誰にも気付かれず動いているケイさんに羨望を抱き、私は先を歩く彼氏の後を追った。
その翌日。弥生ちゃんは明るくチームメートに振る舞い、ハジメさんは帰ってくると断言して明るく笑っていた。重々しい空気を晴らすように。なにより今はハジメさんの仇を取りたい、そう告げる彼女は早速情報収集をすると言い出した。本当に弥生ちゃんは強い人だと思った。
彼女の宣言により、リーダーもすべてを終わらせようとチームに告げた。因縁の関係に終止符を打とう、ヤマト達と決着をつけよう、そう彼は決意を露にして私達に言い放った。
まだヨウさんは無理しているようだったけれど、それも三日後には完全復活を果たしていた。
誰も何も言わなかったけど、ヨウさんが復活を果たした一要因としてケイさんが関わっているのだとチームメートは察していた。ケイさん自身は何も言わなかったけれど、私は分かっていたんだ。
だからこそ私も頑張らなきゃと思った。
舎弟として走っている彼に見合う女の子に、彼やチームの支え、ううん、つっかえ棒になれるよう全力で走ろうと意気込んでいた。
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